■カイバ04ばあさんの記憶の部屋s三原三千夫湯浅政明c&d&g三原三千夫

◆・・・・なんという、不必要にダークな結末。素晴らしい。
◆人の良い無知な「田舎もの」兄弟の、(欲をかいて結果として無二の肉親を殺してしまったとはいえ)行き止まりじゃない「違う世界」を素朴に健気に夢見て、密航した宇宙船で抱き合って亡骸になっている様子は、なんというか、彼らに対する「無知ゆえの愛しさ」みたいなものがふつふつと湧いてきて、結構衝撃的。
この回、この一節のラストへの追加で、一挙に物語が膨らんだ様な気がした。良かった。


◇しかも、宇宙船クルーが、彼らを、物理的、事務的に処理する情緒のカケラもない演出を見ていると、ああ、もう、湯浅監督大好きーっ、と叫んでしまいたくなるような、見事な物語的なコントラスト。
わたしにとって余りにストライクすぎて、たぶん、カイバに関しては、ひいきの引き倒しになっているな、こりゃ。


◆しかし、この回、この最も衝撃的だった因果は、実は脇筋だという充実ぶり。
この回のビジュアル的、物語的メインは、亡き夫の死を認めたくない余りに「頭がオカシくなった」おばあさんの、脳内の葛藤と妄想。


◇孫の兄弟を想う支離滅裂な想念から、やがて亡き夫への純粋な愛情へと、思考が統合されて移り変わっていく様が、丁寧な絵的なケレンで上手く表現されていたんじゃないかしら。


◆ところで、おばあさん。亡き夫への想いは統合されているけれども、一緒に暮らしている孫への思いは支離滅裂だった・・・というところにこの回の、見る私達へ迫る痛さのポイントがあると思うんだ。


◇おばあさんも、孫の二兄弟もお互いの価値を認めることができず、理解しようという努力もなく、コミュニケーションが断絶している。
貧乏人は、移動の自由もままならず、肉体的にも思考的にも閉塞したディストピアの中で、肉親すらも安息の地ではない。
自分たちを黙っていても思いやってくれる人もなく、愛情を注ぐ家族もない。


◇おばあさんは、亡き夫の思いを大事に胸にしまって生きてきて、あの世に旅立っていったけれども、では、彼女の孫の二兄弟は?
想ってくれる人もなく、想う対象もなく、社会的な対象関係もない。閉ざされた兄弟二人の世界に未来はあるのか?


◇この閉塞を打ち破るためには、自分たちの世界を拡張するしかないじゃないですか。そこで、兄弟は健気にも決死の思いで世界に跳躍する。
しかし、世間知らずな兄弟は、初っぱなから取り返しの付かない挫折に陥る。彼らは、彼らの唯一の世界だった自分の分身を抱きしめて冷たくなるしかないのか・・・・。


◆この兄弟の境遇のせつなさは、もう泣くしかないす。
この回、おばあさんの妄想内のメタモルフォーゼだとか、おばあさんの年寄りらしい「口の動き」だとか(これは素晴らしかった!)、作画的な見どころはたくさんあるけれども、やっぱりこの兄弟のストーリーラインが一番心に沁みました・・・・。


◆◆以下メモ◆◆
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・この回は、三原三千夫さんのひとり原画。


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・無言のカバに化身しているカイバを、家につれてくるおばあさん。
「よぉう、ばぁちゃんよう。でぇじょうぶかよ?こいつらなんかおっかしいぞぅ?あっやしいぞぅ?」(孫)
「はん、困っとる人をたすけんでは一人前の灯台守にはなれんぜ。・・お前等もいっつまでも子供じゃね。はよう、一人前の灯台守にならにゃならんでな。・・・そんで・・あんひとをたすけんと。あんひとももう年だでな。」(おばあさん)


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・おじいさんの事に触れると昏睡するおばあさん。ユーモラスな無思慮丸出しの孫兄弟によっておばあさんが昏睡した後、カイバを脅す二人。
「俺たちカネがいるんだぁ。そんカネで切符かうんだぁ。」(孫A)
「そいでそん切符で、船にのるんだぁ。父ちゃんと母ちゃんものってったんだぁ」(孫B)
「その船でいろんなところにいくんだぁ。」(孫A)
「広い世界をみてまわるんだぁ。」(孫B)
「このちっぽけな星から出てくんだぁ」(孫A、B)


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・おばあさんの妄想の脳内。孫に対する想いは、多分、支離滅裂。このシークエンスはすごく良かった。
「あるよ!宝物はあるんけんど、あん子らにはないも同じなんよ!・・・あん子らの親がいかんのよ。あん子らを置いて、勝手にこん星を出といていって・・・。よお似とる。とおばかり見ておって、自分足もと見とらん。」
「いっつも自分らが食い散らしているその足下で、おっきな家がいくつも出来て、そこんで大勢のモンが暮らしているのを知らん。」
「池の魚さ釣って、そんれを焼いて食ってしまもうて、嫁を亡くした魚がエビの嫁さんもろうて、そんたまごから魚エビの生まれとるんを知らん。」
「自分の足の裏にくっつけたお粉を、いろんなところ歩き回って、メコナにくっつけて、ぱっちんの木を増やしとるんを知らん。」


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カイバに諭され、3世代の「脳内自分」に諭され、執拗に否定したおじいさんの死を突きつけられて子供のように泣き声を上げるおばあさん


・妄想のおじいさんが登場しておばあさんを諭す。おばあさんやおじいさんを幼くしたり、若者時代にしたり、年相応にしたり、この辺りはやっぱりセンスあるなあ。


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・惑星を離れつつある(クロニコの体に入っている)カイバに、バニラが言い寄る。
「クロニコ!パリ(?)の毛が三本になっていたよん。毛が三本になったら、食べ頃なんだ。」(バニラ)


・そのセリフを聞き、「ネイロ」とのキスした記憶をセリフとともに刹那思い出すカイバ
「おしりの毛が三本になっているから、もうじき弾ける」(ネイロ)