■サカサマのパテマ _原作&s&d吉浦康裕g又賀大介

・サカサマのパテマ
・2013年11月公開映画
・原作・監督・脚本・レイアウト演出・撮影監督/編集:吉浦康裕


◇稀に見る秀作!8月に放送したWOWOWの録画を見る。


◆とても面白かった!(監督も作品も)全く予備知識なく見たので最高度に意表を付かれた。吉浦監督、いったい何者・・・


◇(わたくし的には、TVでCMをやっているのを見たくらいで)あまり話題にならなかったような印象だったけれども、これってアニメーション史的に重要作ではないでしょうか。ユニーク極まりない、垂直方向!の、王道の冒険活劇マンガ映画!!


◆アニメーションの運動的に、これって、コナンの三角搭からのラナを抱いての脱出、カリオストロの城の幽閉されたお姫様の所へ侵入するルパンのシークエンスで感じられるアニメーション的な快感の延長線上にあるよね(女の子を庇護する状況を含めて。)。絵的には、スターウォーズの帝国の逆襲のラストも思い出すところ(うう、古い例しか出てこないあたりが・・・)。


◇まさに同じ動画的な垂直運動(落下する、上昇する)のモチーフを強度最強にして、これでもかと繰り返す。見終わっていまだに、天井に吸い取られそうな感覚(下に落ちるのではなく、天井に吸い取られるのです!)が残る。これ!映画館で観たかったよ!


◆そして、垂直運動を演出のメインに持っていくるための舞台仕立てがユニークで非常に冴えている。少年と少女、それぞれの生活する世界が<重力的に上下逆さまで存在>していて出会うとい異常性。


◇一方が、空に向かって(足を空に向け、頭が大地側になって)「落下する」のに、もう一方は普通に大地に立って安定している。少年少女相互に安定して会話できるのは、たとえば、少年がその世界の重力にしたがって地面に足をつける一方、もう一方が納屋の天井に足をつけて、天井を大地のようにしてすくっと立つという状況に限られる。(文字で説明してもわかりにくいと思うので、是非実作を見てほしい!!)


◇この状況から、すばらしく王道でありながら、いまだかってないボーイミーツガールが描かれる。
・放っておくと「空に落ちていく少女」は、「普通の大地の重力にひかれる少年」が、全力で!「しがみ付く」ことで、空に落下して死ぬことを免れる。上下逆さまで、しがみつくってことは、お互いの胴体に顔を密着するってことでしょう!・・・おお、生死の境にある、青春の甘酸っぱさよ・・・。


この仕掛け、お互いの生死をお互いが握っていて、それが性的な状況を意識しないわけにはいかないのに、それを超越して、無色透明になりただひたすら一生懸命・・・というのが、この作品を冒険活劇と表現するひとつの所以。


・この文章では、「少年が少女にしがみついていないと少女が空に落下して死ぬ」としか書いていないが、逆に「少女が、少年にしがみついていないと少年が空に落下して死ぬ」という立場逆転の状況も発生する。「庇護するもの」と「庇護されるもの」、この立場の逆転が二人の関係性の成長、そして物語における「危機とそこからの脱出」といういくつかある山場にも直結する。すごい。すごすぎる!


・「大地の重力にひかれた床からふつうに立っている少年」と、「天井を大地として、<サカサマ>に立つ少女」。二人が最接近するのは、やはり頭部、顔なんだよね。男女の顔が接近して、お互いにドキドキするシチュエーションは、王道でありながら、これはいまだかってないビジュアルだ。特に(予想外の冒険の結果)中盤の「世界の天井」で見つけた飛行船内で「サカサマ」な二人の最接近がグッと来る!


・ただ、基本的な見どころは、「放っておくと空に落下して死ぬ、か弱き少女」を、少年が庇護し、助けて、救い出す。・・・という超王道の冒険活劇マンガ映画なんですよ。


◆さて話はずれるが、この絵的に異常な(サカサマな)少年と少女の関係性の構図と「危機とそこからの脱出の物語」に、世界の成り立ち、世界の秘密の物語が直結するというのも、この物語の素晴らしいところ。


◇重力的にサカサマの二つの世界は、一方が人間的な氏族的社会で、一方が1984的な非人間的な管理社会。物理的にも、社会の性質的にも、「サカサマ」なのは見てのとおりだが、ラストであっと驚くサカサマな世界の秘密が明らかになる。


◆ところで、さっきカリオストロの城とコナン(未来少年の方!)に言及したけれども、少女を搭の最上階に閉じ込める変態ロリコンおやじとそれを助けにいく少年という構図は、監督を始めたばかりのころの宮崎駿の「冒険活劇マンガアニメーション」の、明らかな末裔だと思う。


◇ただ、この作品のオリジナリティのひとつは、コナンの三角搭からラナを抱いての落下も、カリオストロ城での、ルパンの超人的な尖塔と尖塔の飛び移りも、「マンガ映画」ということで誰も理屈を問わなかったが、この王道の「冒険活劇マンガ映画的な動き」をSF的に昇華しているところ。


何度も言うけれども、すごすぎる。その意味で、この作品を「マンガ映画的」というのは正しくなくて、実際は「SF活劇」なんだよね。


◆最後に、個人的には、あえて図式的に描かれた「オーウェル1984的な管理社会」のディストピアが好きすぎる。仄聞すると、吉浦監督の商業デビュー作「イブの時間(2008〜2010)」は管理社会をモチーフとしているらしいので、あとで見るぞ!


◇なお、Wikipediaによると、吉浦康裕監督はずっと自主制作アニメーションをやっていた方らしいが、この作品のシナリオ的、構図的、動画的な完成度は、凄すぎる。一体何者なんだ・・・