■涼宮ハルヒの憂鬱14涼宮ハルヒの憂鬱Ⅵs志茂文彦c&d石原立也D補佐坂本一也g池田昌子

最終回。やってくれるね。これぞ、由緒正しき青春の物語。素晴らしい。
確かに、世界への関心が異性との心的交流にあまり向いていなかった眠り姫が「ヒトを好きになるという」瞬間、関係性の変化をラストに持ってこずして、何を最終回にするというんでしょうってカンジですね。
一つの物語の中で、一回しか提示出来ない希少性の高いエピソード。
最終回に相応しく、コレまでのシリーズを通しての、入り組んだ物語の提示の仕方も納得いくというもの。
(個人的には、この後のふたりの物語はあんまり知りたくないな。この物語はここで止めて、大切にしておくのがいいんだけどな。)


ところで、神の立場の女性が自分の思い通りの世界を作り、世界の登場人物が自分達の存在が今作られたんじゃないかと疑うのは、筒井康隆七瀬シリーズの最終作の名作「エディプスの恋人」との類似を連想するかしら。
だけど、あちらが陰湿な母性に覆われたキモチ悪さがキモだったのに対し、こちらは、世界の創造主はあくまでからりとした瞳の少女であり、世界創造にギトギトした欲望も悪意も嫉妬もなくあっけらかんと屈託なく、ハルヒに創造されたかも知れないキョンもそのことを一向に悩まないのは、時代性か原作のライトノベルというジャンル性か。
しかし、それにしては、少女の、その唯一の心的な屈折の表現が街の破壊だったりするのが、前回も書いたけど、少女の感性としては慄然とするものがあるかもとも思う。言葉が欲しいかもと。(・・・というか、ここは深く考えないほうがいいですね、きっと。言葉にすると、電波な物語にしたいジャンルだし。そういう話じゃないみたいだし。)


さて、この回は、ある意味、このシリーズの素晴らしかった諸要素の集大成ですね。
キョンの軽妙な一人語りが冴え渡り、人物の仕草演出が全編渡って高水準。短いながら威力抜群の高校生活のエピソードがあり、超能力者、宇宙人が活躍。そして、この物語のキモである、少女に振り回される少年を、スペクタクルな状況で活写していて、とてもキモチヨカッタ。
キョンのジタバタした自問自答がテンポのいい画面提示あいまって、とっても盛り上がった。
「オレにとって、ハルヒはただのクラスメイトじゃない。もちろん進化の可能性でも、時間の歪みでも、まして神様でもない。あるはずがない」


◆◆以下メモ◆◆
・谷口くんへの、キョン長門ユキ抱きかかえ事件の釈明が、独特の原画相まっておもむき深かった。
この谷口くんとのやりとりが、学生生活のデティールのメリハリとしてすごく良く機能していたかも。


・部室にて「ミクル」フォルダを発見されるキョン。ああ、オレも朝比奈さんに後からマウスを奪われたい・・・


・朝比奈さんがキョンといちゃいちゃしているのが気に入らず、不機嫌になる涼宮さん。朝比奈さんの髪の三つ編みを黙々と始めるのだけど、ここが不機嫌さを非常に旨く表現していると思った。実際、こういう人いるし、瞳の仕草が非常に上手く決まっていた。


・部室のカットを背景に、キョンの独白
「結局、普通と言えば・・普通の毎日だった。やりたいことも取り立てて見あたらず、何をしていいのかも知らず。時の流れるままの・・モラトリアムな生活。当たり前の世界。平凡な日常。あまりの何もなさに、物足りなさを感じつつも。なあに、時間ならまだまだあるさ・・と自分に言い聞かせて、漫然と明日を迎える繰り返し。それでも、これはこれで非日常の香りがしてなかなか悪くなかった。」
この日常は、このエピソードの後も続くけど、なにかが違っているんだよね。


・自宅のベットでの睡眠中に、世界の秘密への扉が開かれるってのは、いいねえ。


・閉鎖空間への、長門さんとの、テキストでの、かそけき通信が泣ける。こういう状況は大好き。
「>わたしという個体もあなたには戻ってきて欲しいと感じている」
「>また図書館に」


・閉鎖空間での巨人の出現に昂奮して喜びのテンションがあがる涼宮さん。この無邪気に喜んでいる様子が、非常に素晴らしい。
キョン!なんか出た!なにあれ、怪物?蜃気楼じゃないわよね。宇宙人かも!それか古代人類が開発した超兵器が現代に甦ったとか!」
「なんなんだろ!ほんと!・・このへんな世界も!あの巨人も!」
「どうしてだろ、いまちょっと楽しいな」


・閉鎖空間でのキョンのジタバタ。
<・・・オレにとって、ハルヒはただのクラスメイトじゃない。もちろん進化の可能性でも、時間の歪みでも、まして神様でもない。あるはずがない>
「オレ、実は、ポニーテイル萌えなんだ。いつだったかのおまえのポニーテイルは反則的なまでに似合っていたぞ。」


・世界の秘密は、枕元で終わる。ベットから落ちての、このセリフは非常に共感を覚えてしまった。
「なんつー夢みちまったんだ・・・フロイト先生も爆笑だぜ・・・」


・物語は、ハルヒが夢だと思いこんでいる世界の秘密の物語が、現実世界に浮上してきて終わる。ハルヒが夢だと思いこんでいることを、キョンは現実だと知っている。夢だと思って、その恋心に従って、ポニーテイルでやって来たハルヒさんは愛しいじゃありませんか。
キョンは、窓辺に不機嫌に座っている少女に「ハルヒ、似合っているぞ」と告げるのでした。