■UN-GO_10海勝麟六の葬送〜坂口安吾「明治開化安吾捕物帖”冷笑鬼”"赤罠"」よりs會川昇c木村隆一d高橋健司g矢崎優子村井孝司斉藤英子武本大介

◆不思議で不安定で、しかし挑戦的なシナリオだよね。・・・原作では、繰り出す推理は間違いだらけだが、社会的にも小説内の存在的にも「絶対に安定した視点」としての存在である「勝海舟」、この翻案では「海勝麟六」を殺人を企てたものとして告発し、「他人を巻き込んで自殺した」として演出する。


◇この翻案シリーズでは、「社会に受け入れられる(都合が良い)物語」を重視し、「真実はそれに従属すべき」だと考える海勝麟六にとって、「創造された(かもしれない)この犯罪物語」は、「社会に受け入れられる(都合がよい)物語」でなければならない。


◇ということで、そういう展開になるんじゃないでしょうか。


◆・・・しかし、「別天王(べってんのう)」という<「物語を創造してヒトビトの現実認識を改編する存在」>を設定した時点で、劇中の伏線をちりばめた演出、シナリオも、かなりどーでも良く見えてしまうという悲しいパラドックスが・・・・。


◇ていうか、そもそも、オレ、推理小説的付置が徹底的に興味がないことに想いがいたるのでした。


◇それはともかく、国会の参考人招致のあたりでのシナリオの自由奔放さ(何故か因果ちゃんが参考人招致で呼ばれたり。)を見て、作劇のデッドロックを想起してしまった。・・・(人工的とはいえ)理詰めな推理小説世界で、「理詰め」を完全に無効にしてしまう存在を設定してしまうって、どれだけチャレンジャーなんだろうか、・・って思ってしまいました。


◇海勝会長のセリフと口パクがずれているあたりが明らかに前回からの仕込みのネタなんですが、(理詰めで考えても(きっと)報われないという意味でも)どうでもいいと思えてしまい・・・。


◆加えて、致命的なのが(どうやら映画版で描かれているらしい)因果と新十郎の関係が説明不十分ということかな。{ヒトの隠された真実」=「ミダマ」を喰らう存在である因果に駆動された新十郎という構図が、(すごく面白そうなカンジはするのだけれども!)コレまでTVシリーズで語られた内容と乖離がありすぎる。


◆◆以下メモ◆◆
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・新十郎とカザモリの、海勝の犯罪容疑を明らかにする動機に関する対話。
「オレは真実を明らかにしたいだけだ。」(新十郎)
「あなたは元々真実になんか興味がありましたか?(・・・)因果によれば、あなたは、因果のために探偵になった。」(カザモリ)
「ちがう。オレはヒトの真実を知るために探偵になった。それが唯一オレにできることだからだ。」(新十郎)
「ヒトの真実・・・それがミダマなのでしょう?あなたはミダマを因果に与え続けると約束した。・・・だから探偵になったのではないですか?・・因果がいない今、もう真実を求める必要もないのでは?」(カザモリ)
「勝海は別天王を使っている。・・・野放しに出来るか?」(新十郎)


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・国会の参考人招致での海勝の懐述。(結構これが、この物語のコアに直結。)
「2001年、・・・誰もが旅客機が突入する光景を見ながら、後に流布されたビル爆破説。荒唐無稽な水爆説まで信じるものがいた・・・。2011年、今なお影響が残るあの災害を、・・こともあろうに地震兵器などというもののせいにして納得しようとしたヒト達がいた。(・・・)ヒトは真実は隠されていると考えがちだ。・・・そして自分だけは、その真実にたどり着けると信じるモノがいる。・・・・だが、真実など無数にある。・・・たった一つの真実で満足するのは、そこで考えることを止めることにすぎない。」(海勝)


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・新十郎を前にしての因果少年の絞りだすような懐述。
「僕はミダマを食べたいんだ。・・・だけど、新十郎は殺すなと言った。・・殺さずにミダマだけ食べるのは・・・面倒くさいんだよ・・・。」(因果)


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「まだ、海勝麟六が別天王を手に入れていたと考えているのか?」(警察庁警備局課長)
「だとしたら、死んだように見せかけるのはたやすい。」(新十郎)
「海勝麟六は・・・・生きている?」(警察庁警備局課長)


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・民間刑務所の自称小説家との、「別天王」の性質をめぐる対話。
「偶然アレに出会ってから、その能力について実験と記録を繰り返してきた。・・・アレにできることは全て試した。・・・だから、アレは私のものだ。かえせ!」(自称小説家)
「ふーん。この生者と死者というのは?」(新十郎)
「(・・・)それが面白いところだ。たとえば、ここに生者がいるとする。お前達が別天王と呼ぶアレは、それが死体だと錯覚させることは難しい。(・・・)生者は喋り動く。脳は視覚や聴覚からその影響を受け、別天王から受け取った物語との矛盾に耐えず悩まされる事になる。・・・たとえば、ここで私が結城新十郎であると見せかけるとしよう。だが、君をそこに本物を見ているため、脳は情報の矛盾に耐えられない・・・・・・。」(自称小説家)
「・・・だが、爆発事故で原型をとどめていない遺体なら?」(新十郎)
「あぁ、それなら関係者にその死体は自分のものだと思いこませることは用意だねぇ。・・・必要なのは「声」を聞かせること。そして、別天王を視覚認識することによって・・・・」(自称小説家)