■輪るピングドラム23運命の至る場所s幾原邦彦伊神貴世c幾原邦彦相澤昌弘中村章子古川知宏柴田勝紀d相澤昌弘中村章子金子伸吾g相澤昌弘石井久美西井輝実馬場充子

◆サネトシのゆったりした包み込むような男性的な優しい声と柔和な表情と余裕のある動作、しかしそれに相反した皮肉屋で嘘つきで、結構余裕が無い様子。


◇「抽象の地下鉄線内」で、彼に挑戦的に話かけるモモカとの「世界をめぐる対話」でのサネトシの表情演出が絶品。


◇戸惑いと侮りと、それを抑えつけて同じ目線のフリをするサネトシが実に印象的に表現されています。素晴らしい。


「(私の名前は)モモカよ。」
「・・・・・・・・・・サネトシだよ。」
文章だと判りがたいがこの間と、表情演出が絶妙すぎる。


◆ところで、この物語世界は二人の主宰者によって、善と悪の神話的な闘争が行われてきたと言えるのではないでしょうか(善悪の分かれ目は、「今生きている<日常の世界>が嫌いかどうか」というわりと主観的かつ身勝手な理由。この身勝手さが神様らしいよね。)。


◇ふたりの神は世界の成り立ちに大きな影響を与えたにもかかわらず、全面的な対決で半身を吹き飛ばされた中途半端な存在になってしまった。


◇しかし、悪の神は16年の年月をかけて策略を巡らし、復活のための乾坤一擲の大勝負に出る。身体が消滅したにもかかわらずそれに対抗する善なる神・・・・というカンジだよねえ。神話だから、何故善か?、何故悪か?は深く追求されない。


◆特にこの回アバンタイトル、エンディングの、日常という牢獄を嫌悪する「悪の神」としてのサネトシの深み、しかしそれに反する論理の飛躍、感情的な高ぶりが素晴らしい。


◇ここでのサネトシのモノローグが、実に静かで、哲学的で、説得力があるにもかかわらず、結論の論理が飛躍している部分の性根の腐り具合がなかなか出せないカンジだと思うよ。


(アバンのサネトシのモノローグ)
「ある朝、気がついたんだ。・・・僕は世界が嫌いなんだって。・・・世界はいくつもの箱だよね。人は体を折り曲げて、自分の箱に入るんだ。」
「ずっと一生そのまま。・・・やがて箱の中でわすれちゃうんだ。自分がどんな形をしていたのか、何が好きだったのか、誰をすきだったのか。」
「だからさ。僕は箱から出るんだ。僕は選ばれしもの・・・だからさ。」
「僕はこれからこの世界を・・・壊すんだ。」


(エンディングのサネトシのモノローグ)
「人間というのは、不自由な生きものだね。・・・・・・何故って?だって、自分という箱から一生出られないからね。」
「・・・その箱がね、僕たちを守ってくれる訳じゃない。僕たちから大切なものを奪っていくんだ。」
「たとえ隣に誰かいても、壁を越えて繋がることも出来ない。僕らはみんなひとりぼっちなのさ。その箱の中で、・・僕たちが何かを得ることは絶対にないだろう。」
「出口なんてどこにもない。・・・誰も救えやしない。・・・・だからさ!・・壊すしかないんだよ。・・・・・人を。・・・箱を。・・世界を!」


◆話は変わりますが、丸の内線について。何故劇中の地下鉄、「丸の内線もどき」がこの物語の象徴として扱われるのか。


◇ほぼ円環に近い路線を持ちながら、荻窪と池袋という地理的に(割と)近い駅は永遠に接続されない。円環は閉じない。(・・・ていうか、荻窪と池袋はちょっと近いぐらいだが、丸の内線の大部分を構成するループが、未完の環状線という趣を出しているってカンジ。)


◇終点荻窪を延長すれば、池袋に至り、池袋を延長すれば荻窪に至る。もし、円環が閉じるとすれば、荻窪も池袋も運命の始まる場所であり、かつ運命の至る場所であるという両義的な意味を持ちうる。あくまで可能性の話。


◇これを人間の人生のメタファーと見る。人生はぐるぐる回っているんだ。何度でもやり直せる可能性があるんだ。失われてしまった日常も取り戻せるかもしれないんだ。ただし、「輪の欠けた部分」を補完さえすれば。・・・・・・・って、思ってみました。


◆◆以下メモ◆◆
・ヒマリの主治医として、本来の医師と存在を置換していたサネトシは去った。(この存在の置換が描かれた回は、言葉で説明せず、静かに場面でだけで演出し、早朝夜明け前の内省的な雰囲気を醸し出していて、実に印象に残った。)
「サネトシ先生はどこなんですか?」(ショウマ)
「サネトシ・・・・だれのことだね?ああ・・・そんな名前の助手が昔いたな。」(ヒマリの主治医)
「昔・・・?いえ、僕は先生の診察室で・・・・」(ショウマ)
「そういや、先日奇妙な夢を見たよ。・・・その助手と久しぶりに再会して、笑いあって鍋をたべた。・・・不思議な夢だった。」
「その人・・・今は?」
「死んだよ。16年前に。夢の中で彼は自分を幽霊だって・・・言っていたかなあ。・・・・・・・・・非科学的だねえ。」


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「つまり君たちは亡者に呪われているんだ。僕は「呪い」のメタファーなんだ。今度こそ、見せつけてやりたいんだ。帽子の彼女にね。世界が壊れる所を」(サネトシ)


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「さあ、行こう。・・・・・沢山殺してくれ。・・・試そうよ。君の愛の力で何人ころせるか」(サネトシ)
「ああ、沢山壊すさ。」(カンバ)
「これで君は僕の親友だ。(サネトシ)


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「僕、恐かったんだよね。君とその日記が存在していると、またモモカちゃんにやられちゃうような気がして。」(サネトシ)