■フラクタル07虚飾の街s吉野弘幸c&d牧原亮太郎g伊東伸高

◆「世界の秘密を探る物語」として、ようやく盛り上がってきたかも!
この世界における人間の「生」の<現実のレベル>と<仮想のレベル>の往還がこの回ようやく具体的に現れてきて、物語が理解しやすくなったと思った。


◆ところで、私は、経験を通して主人公の視点がひとつづつあがり、一歩一歩「世界の仕組み」がわかっていくという物語が大好きなのだけれども、たぶんこのシリーズもそれにならっている。だけれども、「仮想現実で生きる人類」という扱う題材が難しすぎて成功している気がしなかった。


◆これまで<仮想現実が不完全だけれどもなんとか機能している世界>→<仮想現実を棄てた世界>→<仮想現実が機能しなくなった世界>→<仮想現実が完全に機能している世界(完全都市)>と遍歴してきたわけだけれども、最後の<完全都市>以外、世界の描写にメリハリがあまりついていなくて、違いが分かりにくかったんじゃないかしら。


◇もっと、仮想現実が機能しないポンコツな世界が、ポンコツとわかるように演出できているとよかったんじゃないかなと思いました。きっと、この回の完全都市をみたクレインのセリフ
「なんて再現度なんだ!こんな拡張現実を処理できるなんて!」
に対置されるのが、第一話あたりのシンプルな図形的に抽象化された父や母のドッペルだったんですよね。


◆また、明らかになる「世界の秘密」も実感しにくく、遍歴するごとに「主人公の視点があがっていく感」も少ない気がしちゃったっす。


◆個人的には、見ている世界(生きている世界)の違いによる「生活の変化」や「世界認識の違い」などをキャラクターに寄り添う形で描けるとよかったんじゃあないかと思った。


◇この作品では、基本的にどの世界にいても、そこに生きる人たちの精神や生活にあまり根本的な違いが感じられなかったけれども、本当は<仮想現実の無い世界の住人>と<仮想現実に耽溺して生きる人間>とは、何か大きな認識の違いがあるんじゃないだろーか(主義程度の違いではなく、もっと根本的な何か。・・・・しかし、何かを具体的に言えと言われても、思いつかないのでした。すみません。)。


◇実を言うと、仮想現実がカンペキに機能している<完全都市>の住人が、現代のネット住人の常識的なアナロジーだったのでちょっと肩すかしを感じてしまったのでした。ごめんなさい。。。。。


◇ただ、享楽都市とでもいうか、リアルで実現出来ない願望を仮想空間で満たすための<完全都市ザナドゥ>の煌びやかさはよかった。これを第一話冒頭あたりにもってくると、ワクワク感が違ってきたような気もいたしました。


◆◆以下メモ◆◆
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「ようこそ!完全都市ザナドゥへ」(ザナドゥの女ドッペル)


「やっぱり気付いてなかったんだ。・・・ベットと君が持っているシーツは、ソリッドオブジェクトよ。でも、ベッドの装飾はエアオブジェクト。・・・絨毯も絵もね。」(ザナドゥの女ドッペル)
「なんて再現度なんだ。こんな拡張現実を処理できるなんて!」(クレイン)


「いったでしょ、完全都市だって。・・・ここは世界で唯一、フラクタルがまだ完全に機能している都市なのよ。」(ザナドゥのドッペル女)


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・女ドッペルの知り合いの男ドッペルが、熱でうなされているネッサを見て。
「へえ・・・・リアル相手に触覚のエミュレート信号まで送れるのか。・・・・これは本物かもな。」
「僕はこの子が街で行き倒れていたのを拾っただけさ。・・・たぶん、ウィルスにやられているんだろう。(・・・)あるいはハッキングを受けているか・・・。何にせよ、自分を犯そうとするものと無意識に戦っているんだよ。」
「この子の潜在スペックなら逆に攻撃を仕掛けて、侵入者を血祭りに上げることもできるはずだけど、・・・・出来ないのか、やり方を知らないのか。」


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・ネッサの不調は、僧院のバロー卿の差し金によるものらしい。
「まだ崩せないのですか?」(バロー卿)
「申し訳ありません。防壁は厚く、逃げ足は速く・・・」(手下の女)
「追い続けなさい。ようやくしっぽを押さえたのです。離してははなりません。」(バロー卿)


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ザナドゥの男ドッペルと女ドッペルの対話。
「あの子達だよね。僧院から懸賞付きの指名手配がでているの。」(男ドッペル)
「(・・・)ねえ、お願いがあるの。手柄をゆずってくれないかな。・・・あたし、今ちょっと辛くてさ。このままだとネットワーク回線の利用権を手放さなきゃならなくなりそうなの。だから・・・」(女ドッペル)
「だったら、この街から出ていきなよ。モネを稼げない人間はドネにすがってノンビリやればいい。それが分相応ってもんじゃない?」(男ドッペル)


「(・・・)作品を批評した連中にわざわざ反応して炎上させてさ。・・・自分がリアル割れさせられたの、忘れたの?」(男ドッペル)


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「この谷にいる連中って、ほとんどあのザナドゥの住人なんだって。(・・・)モネをがっぽり稼いでいる人間しか住めない街。(・・・)フラクタルにどっぷり浸かった億万長者たちよ。街にドッペルを置いて仕事させて、生身の体は自然主義者の遊牧民ごっこをしているってわけ。」


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・ネッサが完全都市を機能不全に陥れたのを見た男ドッペル。
「君の力は本当にすごいね。フラクタルをすくったり、或いは滅ぼせるっていう鍵の噂・・・・あれは君のことだろ?(・・・)でも困るんだ。フラクタルは僕の全て。この世界でだけ、自由でいられる人間もいるんだよ。ぜったいに終わらせなんかしない。」