■カイバ12みんな雲の中s&c&d湯浅政明g伊東伸高

◇最終回。
◆これは難しいな。ディストピアな世界設定とひねくれてダークな脚本、そして、ミスマッチなキャラデザとのギャップが素晴らしくて、大好きなシリーズだっただけに絶賛して終わりたいのだけど・・・


◆まず、話の流れとしては、不安定に入り組んでいてごちゃごちゃしていて座りがわるい印象。
「コピーワープ」の反乱の、心情描写と行動が堂に入ってなかなかいいなあと思っていたら尻すぼみになり、この期に及んで新キャラの「オリジナルワープの暗黒面?」が突然登場してラスボスとなる。
そこに記憶を喰う植物「カイバ」が絡んで、ネイロを狂言回しに「オリジナルワープ」=「カイバ」の、悪と善の心理的な闘争が描かれます。


◇メインの物語が前面に出てきた第8話あたりから(そう、名キャラのバニラが死んだ次の回)、話の複雑度が増し、しかし尺が足りず、整理不足、描写不足に陥っているような気がずーっとしている。
しかし、だからと言って一概にダメとは言えず、その未整理の物語群の中から、むくむくと豊穣な物語が立ち上がってくることもあります。


◆だけど、この最終回で浮かび上がってくる物語の結末は、とてもとてもありふれたもの。(作品の絵的な表現や、シリーズ前半の傑出した物語群とは裏腹に)個人的には、商業主義的にパッケージされた結末としか思えず、非常に残念に思いました。


◇記憶の王たるオリジナルワープが自分の悪夢の記憶の中に、実は存在した母の愛情を見いだして、孤独とそれゆえの悪心に打ち勝ち、全宇宙の記憶を支配することを放棄し、恋人と共にささやかな生を生きていく・・・・という感じでしょうか。
カイバ」=「オリジナルワープ」の個人的な「幸せ探し」に我々は付き合ったわけです。(この時点で、私はケッ!とか思ってしまう。ひねくれていてご免なさい。)


◆しかし、記憶の王が不在になっても、記憶の操作は横行し、身体はありふれて代替可能である「悪夢の物語世界」は変わらない。
電解雲によって隔てられていた支配者/被支配者の関係が消滅したとしても、貧しくて体を売り払わざるを得ないような貧困の構造は解消されたわけではない。
むしろ、支配者の不在でこの作品世界の混乱はもっとひどくなることが想像できてしまうでしょう。


◇それなのに、脚本的にも演出的にも、シリーズ前半の大きな主題であった「刻苦に耐えて日常にささやかな幸せを見いだす庶民」に全く目配りをしていないこの最終回は大いに不満が残るなあ。


カイバ個人の幸せが世界の幸せに直結するわけでも無し、「世界の行方」についての目線の低い言及があってしかるべきだったんじゃないかしら。それがたとえ絶望的なヒリヒリした日常の継続であったとしても。


◆ところで、「コピーされ模造された記憶を持つが、ネイロのボディを持っていて視聴者に「ネイロ」として認識され、実際劇中もそのように振る舞う<コピーネイロ>」と、「オリジナルの記憶を持っているが、「ひょーひょー」の中にいる<オリジナルネイロ>」の相克はもっとキチンと描いて欲しかったような気がした。


◇<コピーネイロ>に「カイバ」=「オリジナルワープ」をあてがい、<オリジナルネイロ>に密かに思いを寄せていたキチをあてがうという、結末はどーなんでしょう?
物語として最も美味しいところが、(若干は描写されてきたけど)駆け足ですごくもったいないと思いました。


◆◆◆最後にまとめ。
◆第1話から第7話にかけては、(第8話以降と違って)いずれも物語の目線が低く、乾いたユーモアとウェットな結末が絶妙に混交されて、脚本的にも絵的にもどれをとっても傑出した出来。


◆中でも、話的には、シリーズ前半を引っ張ったクロニコの健気さと悲劇を描いた第3話「クロニコのながくつ」と、バニラの満たされぬ最後を描いた第7話「記憶に残らない男」が素晴らしかったのではないでしょうか。


◆また、気が狂ったおばあさんと田舎者二兄弟のコミュニケーションの断絶による悲劇を描いた第4話「ばあさんの記憶の部屋」、また可愛らしく健気な女の子が密航の果てに出会ったものは・・・という第2話「密航」も素晴らしい。


◆絵的にユニークで傑出していたのは、第5話「あこがれの星アビパ」。これは音楽と年代記的なストーリーライン相まって麻薬的な魅力がありました。


◆あと、第1話「名はワープ」のおける、地表の住民達の、抜かれた記憶を巡る、間の抜けたやり取りも棄てがたい。


◆いずれにしても、毎週の楽しみがひとつ無くなってしまいました。2クールの構成でやってほしかったなあ。


◆◆以下メモ◆◆

カイバ!心を開いて!・・・幸せな記憶があるはず・・・悪い想い出につぶされているだけ。」(ネイロ)
「見つけたの、貴方のお母さんの記憶。貴方に毒を盛ったのは貴方を愛していたから。・・権力闘争から貴方を守るため、死なない量の毒を飲ませたの。・・・あなたを愛していた。」(ネイロ)


・ところで、前回チップを焼かれて死んだとばかり思っていたポポやジャクチュウ氏が復活している・・・・が、セリフもないしこれまでのキャラクター性を(あまり)発揮もしていないので、記憶が蒸発した抜け殻?