■電脳コイル26ヤサコとイサコs&c磯光雄d安川勝木村延景g井上俊之

◇最終回。
◆私達は、失われたものは戻らない、一回帰性の世界に生きている。しかし、忘れ得ぬそれらは、私達の心の中にいつまでも生きつづける。
だけど、失われた対象、心地よい思い出に浸り続けるのは人間の存在を危うくする。
だから、それらを断ち切る必要がある。そしてそれらを断ち切ることが出来るようになるのが、子供と大人の分水嶺なのではないか・・・・・みたいな最終回。


ラストシーンのヤサコがデンスケを幻視するエピソードや、イサコの黄泉の国からの帰還のエピソードも、こんな感想の中に回収される気がした。


しかし、デンスケの忠犬ぶりには泣いたよ。あの世のモノはあの世に留まり続けなくては、現実の秩序は保たれぬ・・・デンスケはそれをわきまえていたのではないだろーか。


◆ところで、コイルドメインに取り込まれたカンナやオジジの意識が、コイルドメインの崩壊で一体どうなってしまったんだ!というのが、全くフォローされていなくて非常にフラストレーションがたまったっす。(カンナについては、ハラケンの内的イメージがコイルドメインに流れ着いたモノ・・・みたいな解説が最後にあるけど。)


肉体は存在しておらず、電子だけの存在であっても、現実の存在と等価になりうると前々回のデンスケのエピソードで表明しているのに、ここを押さえないモノガタリの幕引きはちょっと舌足らずなんじゃ・・・・と思ってしまった。


このままだと、実在に等しい存在を、思い出の中で時折思い出すってことだけになっちゃっていて、成仏できないよう。


★但し、この異界が、実は、人間のユング的な集合無意識として設定されている可能性があって(ヤサコが、この回2度目に異界に飛ぶ時に「<(ヤサコの)内部>にリンクされている」と語られていたり、前回第25話の猫目のセリフ「父さんはイマーゴを開発して世界で初めて人間の集合無意識を電脳空間化したんだ。」)、そうだとすると、また話は変わってくるとは思うのだけど。



◆この回は、異界のシークエンスが非常に出来がよい反面、現実世界パートが、設定の説明と進行上の手続き感が非常に強くなっちゃっていて非常にもったいなかった。。


だけど、これだけ複雑な設定を(色々説明がつかない点はあるが)ワケ分からなくならずにドラマチックに語り終えた脚本の手際の良さと演出の力量は素晴らしいな。



◆◆全体のまとめ感想。
◆とにかく、人物の動きや仕草の作画の素晴らしさは、傑出していて、この作品の最大の魅力。
◆そして、昨今の原作なしのオリジナルなアニメーション日照りの中、邪な視聴者にほとんど媚びずに、これだけの豊穣な広がりを持つ作品を作り上げたスタッフには文句なしの絶賛を送りたい。


◇複雑な「電脳メガネの普及した世界」を、「思い出の中の小学生文化」に似せて、「小学生同士の電脳ケンカ」や「電脳ガキ大将の存在感」など非常に分かり易いビジュアルで見せてくれた序盤から中盤が、特に素晴らしかった。
特に傑出していたのは、やはり、第12話「ダイチ、発毛ス」のヒゲ達のエピソードかな。


なので、ワタシはダイチやフミエが生き生きと活躍していた序盤から中盤こそが、この作品の真価だと思いました。


◇後半は、監督が自ら高いハードルとして課した「複雑な設定」にモノガタリが飲まれちゃったんじゃないかしら。
とにかく、話的にはシンプルな燃える話なのに、いちいち複雑な設定を説明しなくちゃならないという構造が苦しかった。(説明しないと、本筋を追えなくなるという脚本)


だけど、この複雑な設定を無理矢理語りきった脚本的な構成の豪腕は素晴らしい。この理知的に話を積み上げていく態度は、ワタシの大好きなスタンスです。


◆あと、終盤、「人間の意識を電気的に分離し存続させる」テクノロジーが大前提というタネが割れた瞬間から、「電脳世界の上に成立した異界」が、「あの世」を現代的な装いを凝らしてみせるとこうなるよ!程度にしかみえなくなっちゃって、実に惜しい気がしました。


「死後の世界」のビジュアルは、非常に素晴らしいのだけど、「「電脳」コイル」としては、べつの見せ方を工夫したい・・・・とすみません、(ムチャな注文かもしれないとは思いつつ)思ってしまいました。



◆◆以下メモ◆◆
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◆あっちの世界は、(構図としては)死したイザナミに会いに行ったイザナギの神話のパターン。
ヤサコの行動とイサコの幼い独占欲から生まれたミチコさんが、死したイザナミ相当。黄泉の国へヒトを引きずり込もうというダークな属性を持つ。


だから、黄泉の国から地上の現実世界に戻る為には、背後(過去)を振り返ってはならない。振り返ると、黄泉の国の世界に引き戻されてしまう。


◇ヤサコは、失われたものは戻らないというある意味オトナの割り切りの世界を悟っていたから、うしろを振り返らず、失われたデンスケへの未練をすぐ断ち切り、現実に戻る。

◇しかし、イサコは、思いっきり背後を振り返ってしまった。(そこには神話とは違って醜いモノ、本源的な恐怖を呼び起こすモノは何もないが)心が囚われてはいけない世界があった。


◇物語的には、イサコには現実に帰還して欲しいので、演出上、ここで呪術的な行為に頼ることになる。
そのものに付与された属性を表し、その存在を握る事が出来るもの。名前を呼ぶことで、イサコは、現実に戻ることができた・・・


◇こう考えてみると、この作品では、幼い頃や失われたものへの過度に没入は、人間の存在を危うくするものとして、象徴的に描かれているんですね。


それらを断ちきり、涙を拭き、失われたものは戻らないとはっきりと認識することの上に日常を生きていくことが、オトナへの第一歩なのだ!みたいな。


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◆冒頭ナレーション。
「都市伝説によると、電脳ペットは死んだ後、ある場所に移り住むそうです。」


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◆亡きオジジ作成の資料を読んで真相をオバチャンに説明するメガバア。
「4423はイサコの患者ナンバーじゃ。彼女の治療のために設置された実験医療空間4423が、あっちの原型なのじゃ。」


「それに信彦が死んだのは、イサコがミチコに願ったからではない。・・・信彦は交通事故の直後、既に死んでおったのじゃ。事故の後、辛うじて目覚めた彼女は、兄を失ったことを知って再び意識を閉ざした。・・その心の傷を癒す為に作られた空間。心を埋めるモノをイマーゴを通じて電脳物質の形で生み出す空間。そう、失った兄の姿までも。」


「しかし、何らかの原因で変質し、ついには停止した。治療中の天沢勇子と彼女の生み出した心の世界とともに。」
「唯一電脳コイルシステムを知るオジジが、彼女を救う為に、ヌルキャリアーで意識を分離させ医療空間に入り込んだのじゃ。」


「そして彼女は戻ってきた。じゃが・・・・・(『小此木先生はそのまま戻られませんでした。』(イサコの叔父))」
「資料によるとイマーゴは大人には上手く適合せん。負荷がかかったオジジの体は分離しただけで力尽きてしもうた・・・」
「実験空間は人知れず「あっち」と呼ばれる異空間に変容を遂げていった。」


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・回想の過去のデータが再現されるのを見つめるヤサコ。そこには、オジジに「デンスケについてこの場所に来た」と述べる幼少のヤサコがいる。
「デンスケについてきたらここにきちゃったの。」(幼少のヤサコ)
「そうか・・・デンスケもこの治療施設の一部だったからな。」(オジジ)


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・会員ナンバー「1」の、ヤサコの父親が政治的構図を説明。
「メガマス内部にも、旧コイルスと繋がった一派がいる。彼らはある男を動かして失われたコイルスの技術を手に入れようとしている。」
「失踪したコイルス主任技師の名前を知っているか?・・・・その技師の名は猫目。猫目宗介は、失踪した技師の息子だ。」
「彼は旧コイルス一派と組んで、イマーゴを軸に本社を脅す気だったのだろう。」


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・イサコのデータを奪おうと、ハッキングを仕掛ける猫目にメガバアが反撃する。
「4年前も、おぬしがタマコをそそのかしたばかりに!わしが止めなければ、タマコがあっちにいっていたのかも知れぬのじゃぞ!」



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・現実の病室でイサコを呼び戻そうとするヤサコ。再び彼女の意識が電脳世界に飛んだように見えたのだが・・・
「これは・・・分離ではない。リンク先は・・・内側?」(メガバア)
・ヤサコ内部の空間・・・25話でも猫目が解説していた「集合無意識」ってことかしら?


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・幼少のヤサコと4423のお兄ちゃん、イサコの為に作り出された兄のイメージとの会話。
「ここはどこなの?」
「ある女の子の為に作られた空間なんだ。傷が癒えるまで、いつまでも子供のままでいられる場所。」
「僕はもうすぐいなくなるんだ・・この空間と一緒にね。その女の子はもう僕の力を借りてはいけないんだ。そういう決まりなんだ。僕の役目はもうすぐ終わる。」


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・ミチコの誕生について、ヤサコが悟り、イサコに語りかける。
「ミチコさんは天沢さんひとりでが生みだしたんじゃない。もうひとりいたの・・・ミチコさんを生み出したヒトが。・・・それはこのワタシ、小此木優子よ。」
「私のキスがあなた達の別れを邪魔してしまった。・・・ミチコは私のキスとあなたの苦しみの子供。・・・・天沢さん、戻ってくるのよ。もうその空間とは、さよならしたはずなんだから。」


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・ミチコは、イサコが異界から現実に回帰しないように必死に説諭する。
「あなたはお兄さんの思いを捨てて勝手に大人になろうとした。そんなのワタシが許さない。」(ミチコ)
「さあ戻ってきなさい。こっちはとても心地いいわ。お兄さんもここにいる。ここでは大人になる必要がない。いつまでもあまくてせつない気持ちでいられる・・・・」(ミチコ)
「ここにいれば何にもいらない。大人になる為の痛みも苦しみも。」(ミチコ)


「行ってはダメ・・・そっちには痛みと苦しみしかないの。」(ミチコ)


・イサコのミチコへの決別。
「だから・・・だから行かなければならないの。私はこれから、あなた達なしでも、自分ひとりで生きて行かなくてはならないから。」(イサコ)


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・現実と異界の狭間での、イサコとヤサコの会話。
「あなたの夢に繋がっていたのね。」(イサコ)
「いつも不思議に思っていた。私の心の世界は、ずっとあなたの心の世界に繋がっていた。」(ヤサコ)
「私、あなたのことが嫌いだった・・・でも分かったの。何故嫌いだったのか。・・・ずっと、恐かった。誰かと心が繋がることが・・恐かった。・・・でももう恐くない。見失っても必ず道はどこかにある。」(イサコ)
「ヒトは細い道で繋がっている。時々見失うけど・・・」(ヤサコ)
「でもきっと繋がっている。」(イサコ)


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・イリーガルの正体について。予測をヤサコに語るハラケン。
「イリーガルってなんだったんだろう。ずっと考えてた、今までのイリーガルは全部何かの感情だったんじゃないかって。憧れとか、恐いとか、もう会えなくなってしまった誰かに・・会いたいとか。そういう気持ちが、誰にも知られずに消えていくはずの気持ちが、あのヌル達が拾い上げていたとしたら、・・・それがイリーガルなんじゃないかって。」(ハラケン)
「もしかして、カンナちゃんも・・・」(ヤサコ)
「うん、僕の心の中のカンナが心の道を通じて会いに来たのかも・・・って。」(ハラケン)


「もしミチコさんもイリーガルだったとしたら、何だったんだろう。ワタシと天沢さんがミチコさんを生んだあの時の気持ち。・・・せつなくて悲しくてそれに・・・」(ヤサコ)
「ちょっと苦しい。・・・・その気持ちってもしかして。・・・初恋かな。」(ハラケン)