■電脳コイル24メガネを捨てる子供たちs磯光雄松澤洋介c&d高橋和也g本間晃押山清高

◆この回は、オトナ達にいびつなものとして否定された仮想世界での体験が、デンスケの死を媒介にヤサコの中で静かに咀嚼され、やがて力強くその存在を主張し始めるという展開がとってもカタルシスがあった。


◇母親が(イライラする善良な鈍感さで)やんわり遠回しに述べる、仮想のペットは「本当」のペットに劣った存在、だから、そんなに気落ちしないでという言い聞かせを、夢のような茫然とした精神状態で判断保留で蓄積していったヤサコ。


◇惚けたようにデンスケの死にもイサコの意識喪失にも何も感じないと述べていた彼女が、デンスケの声を他人の飼い犬に重ねるときに、突然溢れ出す激情、喪失の涙が実に感動的。
「・・・死んでしまった。・・ほんとに、死んでしまったのね。・・・デンスケ。」


◇ここ(Aパート中盤)での認識の劇的反転がヤサコの中で意識化されるのはBパートも終盤なのだけれども、この感情の来訪とその意識化を分離させる脚本も上手いと思いました。
だけど、演出的には、ちょっとカタルシスの勢いを削いでいるかもとおもっちゃった。



◆そんなワケでこの回は、ヤサコの感情の反転のメリハリ効いた演出がとっても素晴らしかったのだけど、最後、ヤサコの起こした行動の行方が最初さっぱり見当が付かなくて激しく戸惑ってしまった。
なんで金沢にいくんだーっ・・・と思っていたら、オバチャンの言う、イサコを助ける最後のよすが「ハザマ交差点」の手がかりを旧友のマユミが持っているからだと、ハタと思い当たりました。


◆ところで、脇筋的には、イサコとヤサコの「事故」を契機に、電脳メガネは子供達にとって危険なモノだとされ、事件を身近に感じるオトナ達によって、子供達は実体世界に引き戻されることになった・・・という話が語られています。


◇メガネを使わないヤサコの母親が、デンスケの事を殆ど知らなかった事に代表されるように、子供の世界では仮想の世界の中に、オトナの知らない彼らだけの世間の方法と友だちがあったんですね。
この世界での電脳世界は、良く物語られてきた、子供の頃だけ、子供だけに見える妖精みたいな構造なんだなあとあらためて思いました。


◇あと、電脳世界では無敵のフミエが、不良に絡まれて弱々しくしているのをダイチくんが助けるという、ダイチ好きにはサービス的な挿話も。
悪ガキはやっぱり肉体派だという、世界のルールの違いによる逆転が面白かった。これでやっと名誉回復かしら?


◆◆以下メモ◆◆
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・冒頭のナレーション
「天沢勇子の言葉によると、人と人とを繋ぐ心の道は細く途切れやすいそうです。」


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・イサコの安否を尋ねるヤサコにオバチャンが答える。
「全てのリンクは切断されたわ。・・たぶんリンク先の空間も・・・もう。」


「昨日の出来事は表向きの社会では何も知られずに終わる。あたしも事情を聞かれたけれども、・・こんなの、オカルト話にしかならない。あたしがおこした4年前の事件と同じよ。・・メガマスもそれを読んで私や猫目を派遣したのね。」
「猫目は、4年前一緒にキラバグ集めをしていた男よ。いまはもみ消す側だけれどもね。」
「キラバグも、コイルスの空間も、もうどこにも残っていない。あるとしたら・・都市伝説のハザマ交差点ぐらいかな。イサコの意識を呼び戻す方法は・・・もう。」


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・この回、初めて、ピンクミゼットがタケルの肩に乗っている描写があり、タケルのペットであるこが確定?
・あー、ピンクミゼットを操るもう一枚上の黒幕がいるかとおもっていたのにい


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・そうか、そーいえば、猫目はオバチャンには正体は知られていなかったんだ。白々しくとぼける様がナイスな憎らしさ。オバチャンにイサコの病室を知らないかと聞かれて。
「僕も知らないんだ。彼女の身柄はメガマスが押さえている。天沢は一年前にも同じような通路を開こうとして失敗している。やはり、アシハラカンナの一件にも関係しているようだ。」


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・猫目とオバチャンの関係。
「頼もしいねえ。昔はあたしのパシリだったくせに。」


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・ヤサコの母親のヤサコへの言い聞かせ。なーんだか、無性にイライラした。
・事件の詳細も聞かず、子供の感情の動きを把握しようともせず、一方的に母性を押し付ける様にぞっとした・・・・というのは捻くれすぎですか。
「分かる優ちゃん、こうして触れるものが、暖かいものが、信じられるものなの。ぎゅっとやるとちょっとくすぐったくて、ちょっといたいの。・・・分かる?・・・それが生きているって事なの。・・メガネの世界はそれがないでしょ?・・優ちゃん、戻ってきなさい。生きている世界に。あったかい世界に。」


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・オバチャンは、イサコの叔父に彼女の出自を聞く。
「はい。ノブヒコは既に他界しています。・・この子は不憫な子で、幼い頃に父親を亡くし、ノブヒコだけが心の支えでした。でも、母親も病気で入院することになって、二人を内で預かることになったんです。・・ところが引っ越しの火に勇子とノブヒコは交通事故にあって、二人とも意識不明に・・・」(イサコの叔父)
「その時勇子を治療したのが、小此木先生でした。(イマーゴの電脳医療)それがどんなものなのか私にはさっぱり分かりませんが、勇子だけは目覚めました。その間の記憶を全て失って。」(イサコの叔父)


「小此木先生が亡くなった頃だわ。・・・ノブヒコくんはその時どうなったんです?」(オバチャン)
「・・・それは、メガマスの契約があって言えないのです。」(イサコの叔父)
「お願いします。どうしても。」(オバチャン)
「・・・22です。(・・)今はこれだけしか・・・」(イサコの叔父)


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・カンナのメガネに何かを発見し、誰かに電話をかけるオバチャン。
「もしもし、待って!私の話を聞いてください!甥が解析したカンナのメガネにある情報が含まれていて・・・」


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・ヤサコの認識の反転。
「本当って何?手で触れられるものが本物なの?手で触れられないものは・・・本物じゃないの?・・・今、本当にここにあるものはなに?間違いなく今、ここにあるものって・・・なに?・・・胸の痛み。・・今本当にここにあるものは、この胸の痛み。これはまやかしなんかじゃない。手で触れられないけれども、今信じられるのはこの痛みだけ。この痛みを感じる方向に、本当の何かがある。」


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・猫目とタケルの会話。カンナの事件の真相が語られる。猫目ひどすぎ。
「にいちゃん、本当に僕らがしていることは父ちゃんの名誉のためになるんだろうか?」(タケル)
「また、その話か?」(猫目)
「でも、悪くない人まで巻き込んだりして、そんなの・・・」(タケル)
「アシハラカンナのことか?あれははっきり事故だったじゃないか。4423のハンドルで二回も警告したのに、よりにもよって通路を開いている最中にノコノコやってくるなんて誰が予想できる?それも、イマーゴを持っていたなんて。・・分離をおこした電脳体を避けて、電脳ナビは、生身の方を跳ねてしまった。・・・痛ましいことだが、我々にはどうしようもなかったんだ。・・こっちこそ、滅多に無いチャンスとキラバグを失った。そのためにどれだけ苦労したことか。」(猫目)


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・信念を胸に秘め、ジイさんの遺品のメガネを持ち出し、金沢へ向かうヤサコ。
・電車の中で、古色蒼然としたメガネのOSを起動し、ネット上にある自分のサービスにログオンする。
・金沢時代の友だちのマユミのメールのログを確認する。
・第21話で(異界を覗いて意識を失った)ハラケンが意識を取り戻した刹那に描いた絵(4つの丸)と、マユミの「証拠」だというマンホールの写真を見比べる。
「やっぱり、あのときマユミが言っていた場所が・・・ハザマ交差点なんだわ。」


・どこかで見たと思ったら、OPの冒頭のマンホールの絵がこれだった。
・この様子を見つめるピンクミゼット。


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・画面に表示されるマユミからのメールのタイトル。古い順に。
「証拠の写真が・・・」
「本当に見たんだって!・・・・」
「さようなら、もう絶交・・・・」
「もうメールしないで・・・・」


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・金沢に着き、かって喧嘩別れしたらしいマユミに電話し、留守電に録音するヤサコ。
「マユミ、・・・そんなに簡単には会えないよね。あの時の事・・・いろんな事があったから。一言では言えないけれど、わたし会いたいの。・・あの時マユミの言っていた場所。4つのマンホールが並んでいる、あの場所は本当にあったのよ。古い空間の中に。」
「・・・・でもそれだけじゃない。マユミ、あなたが私をいじめてたなんて、もう思っていない。あなたはミチコさんが恐かっただけで、決して・・・・」


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・ヤサコの電話を後で聞いていて、おもむろに語りかけるマユミ。
「私がいじめてた?いじめていたのは、あなたの方じゃない!」