■エルゴプラクシー22桎梏/bilbul_s川邊優子cdg寺田嘉一郎久留米健吾小田剛生g補佐小森秀人

「漸くたどり着いたな・・・ビンセント・ロー。・・だが、抜け出せるかな・・・この迷宮から。」
この回のラストは、第1話冒頭の、暗い階段から、開かれた狭い出口を見上げるカットと同じ場所ですね。第1話の、光度の高い空と雲を背景に、うなだれて涙を流すプラクシーと、天井からぶら下がるペンダントが揺れるシーンの、その階段が、執国の椅子の背後にあったってことですね。暗く細長い階段をあがると、開けた水辺のある広場になっていて空にはかもめのような鳥が舞っている・・・


さて、うー、この期に及んで、ワタシは、まだ、混乱の淵です。多少あがいてみたのですが、この回も、一義的に断定して記述することが出来ないです・・・(しかし、これが結構楽しかったりする)
以下、またも、仮定に仮定を重ねた、思いこみの激しい記述で、なんだか最終回見たら全然ちがっていたりしたら、ご愛敬ってことでよろしく。
人間は、見たいものしか、見えないものなんですよ。


◇まず、悩んだのが、この回のラスト。
「ビンセント=エルゴプラクシー」と相対する、「真のプラクシーワン」らしき、大塚芳忠声の玉座に座ったプラクシーのシークエンス。
これは、画面に描写的に表現されているように、物理的にロムドの執国の執務室と地続きの塔の最上階なのか。それとも、ワタシ好みの「物語的に1階層登ったところ」を象徴的に表現しているのか。


相当、悩んだけど、これだけ大量の謎を放置していて、あと一話であることを考えると、後者じゃなきゃ、ワタシ的には、物語をキレイにまとめられない気がするな。


あまたの謎を確定せずに、混乱のまま放置し、終盤にいたっても、なお新たな謎を投入してきたのは、明らかに意図的だと思うのです。混乱した物語の迷宮こそ、この物語の世界の態様であり、実は、細部にあまり意味はないんじゃないかな。
世界の態様について、混乱のまま放置し、統合的な意味のある説明をするには、物語の舞台をもう一段、上位に付け加えるしかない。
真実を喝破(したらしい)リルが、真の人形遣い師に語りかけると、暗闇が勝っている、執国の黄昏色の執務室の背後の幕が上がり、眩しいばかりの光が溢れる演出をみていると、この印象が正しいような気がしてきてしまった。


・・・・つまり、メタ構造の明示が今回のラストだと思ったのだけど、どうでしょうか。
ダメですか。コレまでの自分の憶測に縛られている解釈かも。


◇ダメついでに、この回のラストを最初見た時、映像メタフィクションの傑作として未だに印象が鮮烈な、昨年放送のウルトラマンマックス実相寺監督の第22話「胡蝶の夢」の白眉のシーンを思い出しました。
手前の薄汚い万年床がひかれた四畳半の脚本家の執筆部屋から、主人公がまばゆく光り輝く奥に向かって歩み出すと、そこは防衛隊の司令室。背景音には、パチンコ屋の音、踏切の音、電車の走行音が充満していて、マックスの世界の登場人物達が書き割り状態で佇んでいるのでした。(ワタシは稀代の名シーンだと思いました。この回は、石橋蓮司ウルトラマンに変身するなど、捻りに捻った傑作回。必見です。)


この鮮烈なシーンでは、主人公は、(単純に割り切れないけど便宜的に述べると)「四畳半=現実」から、「司令室=仮構」へ、歩みを進めましたが、エルゴのこの回では、「混乱した物語世界=仮構」から、「空の下、玉座に座っているプラクシーの居る世界=より上位の世界」へ歩みを進めたんじゃないでしょうか。
(ここで現実と書かないのは、この上位の世界が現実であるとは、断定できないし、なんだかプラクシーワンが座っている様子は夢みたいじゃないですか。)


◇ところで、上記のワタシの思いこみが正しかろうが間違っていようが、この回の最大の問題は、リルが、「ビンセントとエルゴプラクシーを操っている存在」を、ナゼ喝破できたかというところかな。ここが圧倒的に弱くて、微妙に絶賛できないところ。
「・・・今やっとたどり着いた、私の真実に。」
「・・モスコに残されたメッセージ。二つのペンダント。分かれたもの。・・何度か私たちの前に姿を現してきた。・・・・聞いて居るんだろう。」
「・・・ビンセント・ローそしてエルゴプラクシー。記憶をなくし二つの人格を持つビンセントは、お前にとって最高の隠れ蓑だった。・・・だが、私の真実は、お前の存在を浮かび上がらせた。」
「・・・ビンセント、エルゴプラクシーを操り続けたもう一つの影。・・・姿をみせろ。今も近くにいるんだろう」


ここで、第二の悩みが発生します。
このリルが「ビンセント、エルゴプラクシーを操り続けた」存在とは、文字通りより高次の存在として、高見から「ビンセント=エルゴ」の行動を操っていたという解釈でいいのか、それとも都合のいい時に「ビンセント=エルゴプラクシ」のふりをして、暴れたりしていたという解釈なのか。つまり、我々の目の前に映像的に出現したエルゴプラクシーは、「エルゴ」と、「真のプラクシーワン」の二人いて、シーンと文脈で実は区別できる作りになってんじゃないかという可能性。
しかし、なんだか、前者のような気はするな。


◇ところで、実は、そんな構造の話はどうでもよくて、この回は、ラウル局長の最後に泣いた。
ラウルが最後に渇望したのは、理性と合理の合間に埋もれさせ、切り捨てていた、家族という見果てぬ存在。その希望が果たされることなく、劇的なドラマなしでショーウィンドーのガラスに貫かれて果てたラウルこそが、その最後を含めて、この物語では唯一人間らしい存在だったかも。


思い返せば、最初は、合理的なキザ男だけが属性と見えたけども、「神様」の作った絶対の秩序への絶望的な反逆を企て、敗色濃厚になっても、最後までそれを貫徹しようとしたラウル局長が一番、まっとうなヒトだった。


家族を殺されても、能面に微妙な表情の揺れしか見せなかったラウルが、世界の運命を抱えつつ、隠された激情家の一面を時折見せながら、やがてこんなにも家族を恋いこがれる男になるなんて、非常に上手い二面性の演出でした。


人形が踊る時計台の広場でピノとラウルが並んで立っている、ピノの描いた、子供らしい絵を懐に忍ばせ、時計台の広場に向かう瀕死のラウルのシークエンスでは、もう泣くしかない。
「まだ・・あえるのだろうか。」


ピノの独白が追い打ちで、もうダメです。
「あのねー、パパ。ピノには、いっぱいの気持ちがあるんだよ。・・・嬉しかったり、楽しかったり、いろんなこと。ピノはどんどん遠くにいっちゃって・・・・でも、パパと離れてからパパと会いたいっていう気持ちがわかったの。・・・パパにも、いっぱいの気持ちがあるんでしょ?」


◇ところで、このラストに登場する(おそらく)「真のプラクシーワン」の大塚芳忠の声は、第11話「白い闇の中」の、本屋の主人である「記憶の番人」と対話する「謎の知性体」の声と一緒ですね。あのとき、ビンセントの思考に、強制介入したのは、プラクシーワンだったんだろうか。
第11話では、謎の知性体に対抗し、世界の成り立ちについて知っている存在として、記憶の番人が描かれていたので、最終回で再登場するんじゃないかと予想。



◆◆以下メモ◆◆
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・アバン。前回の続きで、ラウル局長が、FP光弾を、理性を失い憎しみだけで動いているエルゴに右手に命中させたところから始まります。エルゴは腕を引きちぎり、危機を脱します。右手はすぐ再生。


・エルゴは、リルをも襲うのだけど。
「ビンセントは・・・・・・・私を殺さなかった。まだ、完全にビンセントとしての人格を失ったわけではない。だが。」


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・前回、ピノがロムドの自分のアパートに入っていく時、鳴っていたピアノ。誰かがピノの家でピアノを弾いているのかとおもったけど、演出的には、BGMだったってことみたいですね・・・・
ピノは、クレヨンで絵を描きながら「どこにいるの・・・パパ」といってます。


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・執国の執務室で、リルの独白
「私は・・・ずっとこの街がキライだった。・・・偽りだらけの世界。けれど、これが真実。・・・だとしたら、私が求めたモノはあまりにも・・・。」


・リルが新リルと出会う。銃を突きつけるリルに、新リルが語り出す。
「悲しいことしないで。あなたは、ビンセントに私を・・・モナドを思い出させてくれたヒト」
「何をいっている。モナドだと?私に何の関係が。それにおまえはなぜ、ビンセントを・・?」
「彼はもう、これ以上苦しまなくてもいい。私は彼を救い出したい。創造主の苦しみから。」
「創造主の苦しみ?」
「このロムドを作ったのは彼。」
新リルは、モナド・プラクシーの細胞から作られたってことなのかな。同じリルという名前がつく以上、リルもまた・・・・とかおもっちゃうんだけど。


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・リルが4人のアントラージュに問いかける。
「教えてくれ。おまえ達が知る真実を。」
『リル。・・真実・・それは、このロムドの終わりを意味する。』
「ビンセントは・・エルゴプラクシーはそれを見届ける為に再びこの街に戻ってきたのか?」
『創造主の御心は我らにも見えぬ。』


「ビンセントは本当にこの街をつくったのか?」
『このドーム。そして良き市民の元となる数十体。』
「あとは、ウームシスでの管理増産・・・」
『そうだ。』


「私は外の世界で幾つかのドームを目にしてきた。・・それらのドームも、それぞれのプラクシーが創造したモノだったと言うことか。やはり、プラクシーは神・・・」
『そして、ロムドは神に見捨てられた楽園。』
「・・見捨てられた?
『エルゴはこの地を離れた。』『己への激しい失望と共に。』『託されしものドノブ・メイヤー』
「おじいさまが?エルゴに?・・・全能者というべきプラクシーは、ナゼこの地を捨てた?この世界の混沌はなんだ?」
『つまりは全能ではなかったということ。』『エルゴは、このロムドにとっては、確かに、神。』『しかし、不完全なる神。』『その神が創造するものもやはり不完全。』『そして、神は我らを見捨てた。』『我らを生かしたまま。』


「では、ロムドのモスコ侵攻とは?」
『栄光と偉大を失った憂鬱。当然至極なる復讐。だが、モナドは我らから光を奪い、その閉じた目で我らを硬く封じた。』『かくして我らの目は、もはや大地に輝かぬ。』『わかるか』『皮肉な話だ。』『我らの知らぬ処で創造主は帰還していたというのに。』
「不完全な・・神。私たちは・・・・まさか私たちは、・・・創造主の苦しみ」


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・新リルは、デダルスに創造されて一見従順だけど、モナドとしての本性があって、このような発言とか、ビンセントを気にかけたりしているのかしら。
「もう苦しまないで、私の処へ来て、ビンセント。・・・苦しみの檻から・・解き放ってあげる。」


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・Bパート。デダルスの執務室を勝手に荒し、FP弾を探すラウル。
「FP弾はどこだ。あるだけよこせ。」
「いいですよ。勝手に持って行ってください。」
「どこにかくした。」
「さあ、忘れたな。」


「あーそうだ、捨てたんだっけ。」
呆然とするラウル。


「・・・貴様、なぜ。」
「だってもういらないから。」
「私は奴を、ビンセントローを殺さなくてはならない。」
「ふっ、・・・僕にはリルさえいればそれでイイのさ。」
「ふん、現実から目をそらし、リルメイヤーの身代わりと共に死を待つつもりか。」
「良き市民は、ものを捨てましょう。あなたももういらないな。これ以上生きていても無様なだけですよ。美しくない。」
「私は堕落しない。最後まで戦ってみせる・・・・」


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・再び、執国の執務室で、リルの独白。
「ビンセントは、自らがプラクシーであることを忘れる為に作り上げられた、仮の人格。」
「ビンセント・・・創造主であるおまえをロムドが拒絶し続けたのも、無意識のおまえがそう望んだからなのか。・・そう、仕組んだからなのか。」
「全てが仕組まれたことならば、あのとき、私の前に現れたのは、ロムドが崩壊するとき、私におまえを殺させる為か。」
「あたしが作られたのも、そのためだったというのか。だからこそ、あのときお前は現れた。そして、どうしようもなく私はお前に惹かれた。」
「・・・・でも、何故、あたしだったんだ。・・・それは、お前も同じだな。誰も、自分が何者か選んでは、生まれてこられない。たとえどんな存在であっても。」
「・・・そうだろ、ビンセント。・・だが、今、私の心は砕かれてしまいそうだ。私の存在を支えていたものが、一つ、また一つと去っていく・・・・。」


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・リルとアントラージュ最後の対話。
『リル、これはロムドにとっての真実であっても、お前がたどり着くべき真実ではない。』
「・・たどり着くべき真実?」
『それは、誰かに知らされるものではなく、己の内より出づるもの。』『その存在が何者であっても、真実を導き出すのは己である。』


「それぞれの存在に、それぞれの真実があるということか。」
『リル、語るべき言葉はつきた』『悪事と恥の続く限り』『沈黙こそが我が、幸い。』『我を目ざますことなかれ』『終わりの時まで』『ただ静かに」
おそらく、ここで、リルの認識に変化があったんでしょうね。


・リル「私の真実。・・あの瞬間、恐怖以外に私に迫ってきた何か。お前と対峙するたびにそれは大きくなって。・・でも、あれは。」


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・デダルスと新リルの危うい関係。すれ違い。
「僕をまもってくれたんだね。」
「だって、あの人、彼を殺すっていったんだもの。」
「・・・・」
なんだか、次回、狂気のデダルスが、狂気のヒトらしい事をしそう・・・・・


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・デダルスを狙って、新リルに腹に深手を負わされたラウル局長。自宅へ戻ると、ピノが描いた、例の人形が踊る時計台の広場で、ピノとラウルが並んで立っている、子供らしい絵を見つける。
・瀕死のラウルは、裏街を時計台へ向かう。


・瀕死で、広場への道を歩むラウルの映像に、ピノの独白が被さり、泣ける。
「あのねー、パパ。ピノには、いっぱいの気持ちがあるんだよ。・・・嬉しかったり、楽しかったり、いろんなこと。ピノはどんどん遠くにいっちゃって・・でも、パパと離れてからパパと会いたいっていう気持ちがわかったの。・・パパにも、いっぱいの気持ちがあるんでしょ。」
「パパ・・パパもピノに会いたいって思ってくれる?」


この、2度繰り返される「いっぱい」の演技のアクセントが素晴らしい。
この間、ラウルの「まだ・・あえるのだろうか。」という呟きが挿入されて、もう、泣くしかないですよ。


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・エルゴは、この回冒頭から、理性無き凶暴な存在として描かれていましたが、破壊の街を彷徨っている内に記憶を取り戻したみたい。はるかな塔の上層部、執国の執務室へまた、戻る。


・挿入される、エルゴと若きドノブとの「光を背負った上空にいる神と、それを地上で崇めるヒト」的な構図のカットが印象的。もう、エルゴは、元来、将に神なんですね。


・リルと、理性を取り戻したエルゴとの対話。
「ビンセント、・・いやエルゴプラクシー。記憶を取り戻したのか?」
「ああ、この街はオレが作り、・・その全てをこの男に託した。」
「どうして戻ってきた。私が銃を向けることは、わかっていたはずだ。」
「だからだ。殺すんだろ?オレを?」
「私が引き金を引くと?」
「君がそう望むならば。」
銃をおろすリルメイヤー


「なぜ。」
「望みどおりに動くと思うな。・・私はお前に操られはしない。・・・今やっとたどり着いた。私の真実に。・・・モスコに残されたメッセージ。二つのペンダント。分かれたもの。・・何度か、私たちの前に姿を現してきた。・・・・聞いて居るんだろう。・・・ビンセント・ロー、そしてエルゴプラクシー、記憶をなくし、二つの人格を持つビンセントは、お前にとって最高の隠れ蓑だった。・・・だが、私の真実はお前の存在を浮かび上がらせた。・・・ビンセント、エルゴプラクシーを操り続けたもう一つの影。・・・姿をみせろ。今も近くにいるんだろう」
『んふふ、んふふふふ。見事だ、・・リル。One Two Four C Four One(124C41リルの製造番号)・・・』