■エルゴプラクシー20虚空の聖眼/Goodbye, vinent_s川邊裕子c赤根和樹d五十嵐達矢g山田正樹又賀大介

◇ビンセント、つまりエルゴプラクシーに、懸想する女のプラクシー(ひょっとして、モナド・プラクシー?)が、ビンセントの意識に介入し、状況を書き換えようと闘争する話。
このシリーズで頻出する仮構の物語に漏れず、現実と仮構の混濁の見事な演出と、ロムドに戻ったリルの中にビンセントの意識だけあるという意味不明の状況とで興味を引きつなぎ、非常に面白かった。
物語が進行するにつれて、加速度的にテンポ良く、現実と仮構がめまぐるしく交代するコンテ、演出の手際の良さが素晴らしい。


◇さて、この回で展開されるロムド到着後の状況は、登場時デダルスの助手と名乗ったスワンさんが仕込んだ世界らしい。
最大の目的は、ビンセントの意識からリルを追い出すこと。
ただし、それが最終目的の割には、ビンセントの意識をリルの中に宿らせるという訳の分からない状況をつくっているので、これはスワンさんにとって、与えられた不可避の状況の様な気もした。
スワンさんが、その状況に加えることが出来たのは、自分の存在を挿入することだけかも。(スワンさんって、私は記憶ないのだけど、コレまでも出てきたことあるのかしら?)


◇ところで、機が到来したとみるや、ビンセントがリルを殺すように執拗に迫る場面から見て、ここでビンセントが拒絶せずに、リルを殺していたら、その世界が真実になったのではないでしょうか。


つまり、この回で展開される世界は、あくまで「現実」だったのじゃないかしらと思ったのだけどどうでしょう。
ビンセントの脳内で展開されている世界が、ビンセントの旅を主軸とした、このエルゴ世界であり、そこに外部から介入して、いろんなプラクシーが現実を改変しようと試みてきた。
この回のプラクシー、スワンさんも、ビンセントが自分を振り向く世界に改変しようと試みたのじゃないかなーっとおもったのだけど。


しかし、その試みは敗れ、スワンさんは、「さよなら」(サブタイトルGood Bye Vincentですね)といって、ビンセントの世界から去っていき、ビンセントの制御する世界は、スワンさんによる介入以前の状況へ巻戻った・・・・ってのは、考えすぎでしょうかねえ。


◇それとも、この回の世界は、「ビンセントの夢」=現実ではなく、「聖眼」という設定(第15回「生 悪夢のクイズSHOW」で、キーワードだけ、仄めかされただけで、何も語られてませんが。それ以外にもあったっけ)の表出かもしれませんね。サブタイトルも「虚空の聖眼」だし。
たとえば、ビンセントが見た、ロムド市に帰ってからの仮構の出来事は、現時点(ロムドへ帰り着く前)での予知、自分への警告、危機本能の発動みたいなもので、その中に介入してきたプラクシーと闘争していたとか。




◆ところで、なぜ、ワタシは、この回のロムドを現実だと思い、ビンセントの体験しているエルゴ世界をも仮構だと思うのか。(ここから、ワタシの嗜好に基づく、カナリ勝手な予想なので、適当に見てください・・・・・)


◇たとえば、「状況に至る描写」の省略(もちろん省略されずに、キチンと始めの状況と結末を語る物語がこのシリーズのほとんどですが)が、実はこの物語の「仕掛け」なんじゃないかと、いささか考えすぎのアイデアが一つ。


例えば、過去のエピソードを振り返ると
第11回「白い闇の中」では、最初にビンセントが老書店主を訪ねる段階から既に仮構の世界で、現実世界からそこに至る手続きが省略されていました。
第15回「生 悪夢のクイズSHOW」では、現実か仮構か不明ですが、やはり、その状況に至る手続きの描写と、そこから脱出する描写を一切省いた上で展開されてました、
第19回のピノも、終盤に現実レベルの世界が描写されるまで、いつ、どのような状況で、スマイル園の世界に放り込まれたかの手続きは一切省かれていました。


そういう一連のエピソード群の延長として見ると、この回のビンセントの見る「仮構のロムド」での出来事も、実は物語的真実であっても一向におかしくない。
というか、他の「状況に至る描写」を省略された物語に習えば、確実に「夢」ではなく、そこで表現される状況は、「実際に行われたこと」に違いないと、(ワタシは)思うのでした。


◇また、特に第11回「白い闇の中」で執拗に語られた世界の認識についての物語がひとつ。
語られるだけではなく、(しつこく覚えているワタシもどうかと思うが)やはり第11回「白い闇の中」では、最後に絶対の現実レベルとして描写されるビンセントの世界でも、その回の仮構の世界さながらに、本から文字が消えていく描写がありました。
「現実レベルとされる世界でも、現実の保証がない」というワタシの感触。


さらに、この回でもリルが、第11回「白い闇の中」の<謎の知性体>の言葉を繰り返しています「我思う、・・故に君ありか・・・」
これって、言葉自体も想うことで世界が創造されるって意味だし、そう語っていた存在を知るはずがないのにリルが語っているってところでも、現実が仮構であるってことを匂わせているんだと思うんだけど、どうかしら。


◇そういうワタシの思い込みの上で、この世界の構造についての予想。
(ワタシの単なる好みの展開を書いているだけなのですが)全世界に放たれた300体のプラクシーの見る仮構の複合体が、この世界の実体なんじゃないでしょうか。


仮構から仮構に乗り移るのに、手続きはヤボですし、今までにメタ物語が頻出して来た理由も(作り手側の好みという以上に)世界の構成を暗示させるために、付置されていると思ってみたのだけど。
また、例えば、ビンセントからエルゴ・プラクシーへの変貌や、存在自体の演出上の断絶(第9話「輝きの断片」、第12話「君微笑めば」など、直接変身を描写している回もありますが)などは、別に服装にしたって、変身にしたって、仮構なんだから、連続性を考える必要がないっ、という思い切りの様な気もしてきます・・・・


◇というカンジで、この物語は、各地に散在する「創造主」プラクシーたちの紡ぐ、メタ物語の上に、さらにメタな存在として物語に干渉するような世界の構造を描いて、終結するとゆー予想に一票。



◆◆以下メモ◆◆
・アバン冒頭の静止画。全体見た上であらためてみると、ビンセントに銃を突きつけるリルと、リルに奪われるビンセントのペンダント。動揺するビンセントの瞳。という点描かな。
・リルの中に入ったビンセントの意識が、リルが身体を起こすと、リルとデダルスとスワンの写真を見る。リルの首には、ビンセントのペンダントが掛かっている。


・アバンの、リルを看病するデダルスについての描写、Aパート冒頭の執国と4人のアントラージュの前で、ラウルとリルが、詰問を受けている様子など、ビンセントの想像できるはずがない状況の描写がたくさんあるので、やっぱり、この仮構は、準現実ですよね。


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・四人のアントラージュが、執国の御前のリルとラウルに語りかける。
「リル。我々としてもおまえをどう扱ったものか悩むところ。」
「おまえの身勝手な行動は、市民としての枠をはるかに超えた。」
「それはラウル。おまえにも言えることだ。」
「だが、リルの帰還がもたらしたモノはあまりにも大きい。」
「それは、ロムドを維持するに至るまでも」
「執国はその点についてもお喜びなのだ。」


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・<あのとき、始めは何が何だか分からなかった。・・だが、次第に分かってきたこと。それは、何らかの原因で、オレのビンセント・ローとしての意志がリルの中に入ってしまったと言うこと。つまりそれは、リルの目で全てを見て、リルの耳で全てを聞くと言うことだ・・・。>


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・この状況の中で、リルも知らず、ビンセントも我々も知らない(ですよね。過去回で既に登場していたりするのかな・・・)キャラクター、デダルス医師の助手スワンさんが登場。3人で食事をしようと待ち合わせをする場面。
リル「・・スワン?」
デダルス「車の中で話したじゃないか」
スワン「私、おじゃまだったかしら」
リル「いや・・いつもの白衣じゃなかったものだから・・・・済まない。」


・3人の食事のシークエンスで、被さるビンセントの独白。
<けれどそこでは、オレの意志はまったく反映されず、オレがリルの行動に影響を及ぼすことはない。・・彼女の中にある、オレの存在を知るものは・・・オレだけ。>


・「おじいさまは、私がロムドにもたらした点だけ、喜んでいるようだ。・・分かっている。・・おじいさまにとって重要なのは、如何にこのロムドを維持していくか。・・結果として、そのおじいさまのために私が動いてしまっただけ。・・理解はしている。・・私が失ったモノとつなげては考えてはいけないと。」
・この辺から既にスワンさんはなんか腹で何か考えているのを想像できるような画面演出。
・ところで、話は変わりますが、今までの外の世界を考えると、その世界の支配者がプラクシーだった。ということは、執国もプラクシーなんでしょうか。


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・<また時間が飛んだ・・・・いや、そのとんだ時間の間、オレの意識が欠如しているだけだろう。オレにとって、この世界はひどく断片的だ。・・リルにどうしても聞きたいことがある。この町で、オレやピノは?・・もちろんその問いかけは彼女には届かない。・・・・・次の日、リルはセンツォン号を見に行くと言い出した。>
・ナレーションに被さって、リルが寝室で起きるシーン。ビンセントのペンダントを見ながら悄然としている様子。


・リルと対話するスワンの診察。
「だからね、あなたが以前とは少し変わったのかしらって、そう感じたものだから。」
「どうして?」
「あなた、この前の食事の時、短い時間に三度も謝っていたわ。1度目は、私を見分けられなかった時、二度目は、執国の話をした時。3度目はデザートスプーンを床に落とした時。」
「非があれば、わびるのは当然だろ。ひどいな。デダルスは私を相当我が儘な女だと、君に吹き込んだらしい。」
「ほらね。あのときもそうだったけど、話し方がどこか自嘲気味だわ。主任から聞いたんじゃないわ。わたしなりにしらべたのよ。」


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・<ここから、オレの意識は一週間ほど欠如する。その間、リルに何が起こったのかわからない>
「スワン、見せたいモノがある。デダルスにも見せていない。秘密にできるか?」
・センツォン号の船室に閉じこめられているピノ
「ここから出せ!」
「リルもキライだ。ビンスにあんなことをして。ここから出て、ピノが、ビンスを助ける。」


・<ピノはオレを助けると言った。・・本当に、オレはどうなってしまったのか。>
このリルとスワンが対峙して座っている場面に被さる、上記ビンセントの独白と、ピノの鍵盤ハーモニカの音。これは、リルの見るモノ聞くモノとはちがう、ビンセントの意識の、連想の残滓という演出なんでしょうか。この場面、も一回出てきます。
「リル、明日ビンセントに会いに行きましょう。・・大丈夫、私がついているわ」


・リルが目の当たりにする、囚われのエルゴプラクシー
デダルス「少しでも動けば、体内にFP光線が送り込まれることになっている。もちろん彼にも説明済みだ。君が彼の前でFP弾を使ったことがあるおかげで、効果は十分だった。」


リル「・・・ビンセント」
エルゴ「そんなに近づいていいのか?久しぶりだなリル・メイヤー。・・確かに、今動けばオレは死ぬ。だが・・死ぬ前におまえを殺すことぐらい出来る。」
リル「なら、どうしてそうしない。」
エルゴ「裏切り女一人殺す為に、死ぬのが惜しいだけだ。・・・なぜ、裏切った。ナゼだ。」


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・<リルはオレを裏切った。・・彼女の目を通して、こんな自分の姿を見るとは。・・あのオレも、ここにいるオレも、同じビンセント・ローなのか。・・しかし、あのオレは、ここにいるオレと別の意志を持っている。では?オレはだれだ。リルの中にいるオレは?>


・リルの自室へ戻って、スワンとリルの対話。
「ショックだった?・・・私があなたと彼を会わせたわけ、わかるかしら?」
「いや・・・」
「リル、最近時間が飛んだように感じることはない?」
「いや。ただ頭の中で、誰かが話しかけてくるような」
「それは、ビンセント・ロー。こんにちはビンセント」


ここでAパートが終わる構成。かっこいい。
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・リルの身体からビンセントの意識が生起。ビンセントとスワンの対話。
「オレが見えるのか。」
「リルとあなたを合わせたのは、あなた自身の姿を見せる為。確かに、リルはショックをうけたけど、あなたの驚きに比べれば。」
「・・だからか。」
「そう、自分自身と対峙したショックで、リルの中のあなたを呼び出すことが出来た。でも、それには、あなたの存在を認めるモノが居なければならない。・・・あたしのような。」


「ナゼ、オレはリルさんの中に。」
「リルは交代意識状態にあるのよ。・・簡単に言えば、二重人格。彼女の罪悪感。ビンセント・ローを・・裏切った事実が自らの中にあなたというもう一人の人格を作り出してしまった。」
「ちょっと待て・・じゃ、オレは・・オレは・・・ビンセント・ローではないのか?」
「本当の意味ではね。」
「そんな・・・」
「時間が飛ぶ感覚を感じたことは?」
「あ、・・ある。」
「それこそ、あなたがビンセント・ロー本人の意識ではない証拠よ。あなたの意志がちゃんと独立して存在するなら、他の存在であるリルに、意識の介入を受けたりしないはず。無意識のうちにあなたを作り出してしまったように、無意識にあなたの存在を飛ばしてる。」
「オレはどうしたら・・・?」
「今、あなたを強引に取り除くことは、リルを不安定にするだけ。今回の診察はここまで。またあいましょ・・・ビンセント・・・・10数えたらリルに戻りなさい・・・・」
「待ってくれ、オレはまだ君と話が・・・・」


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・自室でコーヒーを飲むリルにビンセントの声が聞こえる。背景にピノの鍵盤ハーモニカが鳴っている。
<リルさん、さわっちゃだめだ>
コーヒーカップごとこぼして割ってしまうリル。取ろうとして指を切り血がにじむ。


・赤いばら。スワンの診察室で、リルであり、ビンセントである存在が、スワンと対話する。
★ビンセントの意識が生起。
「こんにちはビンセント、一週間ぶりね。もう、リルは、ここには来ないと思ってた。リルが私に電話したのは知っている?記録しておいたわ。」
『スワン、もう診療所には行かない。ビンセントの一件が気にかかっているのは確かだが、あんなこと言われるのはさすがに不愉快だ。君とは気の置けない中になれると思っていたのに、残念だ。』


「でも、リルは来た。・・・・・あなたの意識が飛ぶのと同じように、リルも意識が飛んでいるとしたら。いえ、ここに来たと言うことは、無意識にあなたの意識が働いたと言うこと。」
「オレの意志が?」
「出てきて!リル!」


★起きあがるリルの意識
「・・なぜここに、確か部屋で・・・・スワン!・・・スワン?ここは?」
★立ち上がるビンセントの意識
「ビンセント、あなたの仕業ね、ビンセント。」
「オレが・・・」
「あなたは無意識にリルを乗っ取ろうとしているよの。」
『乗っ取る?」
「ずっとその機会をねらっていたのね。彼女を観察しながら。」
「やめろ・・・・スワン。オレは、・・オレは、どうすればいいんだ。どうすれば、リルの中からオレの存在は消える?」
「消えてもいいの?」
「リルを・・助ける為なら。君ならその方法を知っているんだろう。スワン。」


「方法はあるわ。あなたの過去を見せるの。」
「過去?それは難しいな。オレには過去の記憶がないんだ。」
「いいのよ。あなたはどうせ、ビンセントではないんだから。あなたの思う過去で。」
「オレが思う過去を」
「いうならば、あなたの思う願望。リラックスして。願望の世界をあなたは旅する。あなたの願う世界を。」


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・ビンセントの願望の世界・・・・あまりに軽薄であからさますぎて、爆笑した。中でも、ビンセントが、ラウルの長髪に憧れていたのか?っていう小ネタがおかしすぎた。

  • 青空を飛行機雲をくっつけながら何かが飛んでいる。三羽の鳥が飛んでいる。トンネルから出口へ。
  • ラウルを部下に従えた、ビンセント局長。
  • リルが婚約者で、デダルスは彼女の弟という設定。
  • 大勢人がいるレストラン(スワンとデダルスとリルの会食では誰もいなかった)の食卓で、ビンセントとリルとデダルスが、漫画的な婚約者ごっこ


・3人そろったレストランの、全ての食卓にある赤いバラは、スワンの診察室のバラの連想かしら。


・自室でくつろいで、甘ったれた会話するビンセント局長とリル。
リルは、コーヒーカップを落とし割ってしまう。
「まいったな」
「リルさん、さわっちゃだめだ。」人差し指から血がにじむ。
この指の血の実感が、リルからビンセントの意識を呼び出すのかしら。この回、2度目の同じ状況。


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・スワンの診察室。ビンセントとしてやって来たのに、スワンにより、リルモードに。リルは、ビンセントの願望の世界と現実が混乱している。
スワン「一週間ぶりね。リル。」
ビンセント「えっ」
★リルの意識が立ち上がる
リル「・・どうして、またここに。」
デダルス「よかった、リル。家にいなかったからどうしようかと。」
リル「また、授業をさぼったのか?デダルス」
デダルス「何を言っているリル?」
スワン「しっかりして。ビンセント・ローが逃げたのよ。」
デダルス「コギトに感染した、愛玩形オートレイブが侵入して。おそらく彼は君を襲いに来る。もしもの時はコレを。」
スワン「・・・・」
デダルス「・・スワン、リルを頼む」
・ここで、スワンは、これまで「ビンセントの世界」に言葉でしか介入できなかったが、デダルスがリルに銃を渡したことで、リル抹殺に利用できる!と思いついたんじゃないでしょうか。


★テダルスがすぅーっと消滅し、リルがビンセントに変わり、スワンがすぅーっと現れる。この辺はなんでしょうね。段々、現実の手続きやデティールが省略されていくようになって、世界が薄くなっていくカンジが非常にイイ。
「あなたが、逃がしたのね。」
「オレは・・・・分からない・・・」
「いったでしょ。無意識だって。」


「リル、あなたはビンセントを愛していた。」
★リルの意識が立ち上がる。
「もちろんだ。ビンセントは私の婚約者だ。」


「ほらね。ビンセント。」
★ビンセントの意識が立ち上がる。
「あなたは願望と本当の記憶を中途半端に混ぜたわよ。だからリルは混乱している。あなたの願望と、本当の過去の境界線を見失っている。」


「そうよねリル」
★リルの意識が立ち上がる
「はっ・・・ビンセントが、私に会いに来る」


「お待ちなさいビンセント」
★ビンセントの意識
「どうすればいい?」
「リルを殺すの。あなたはリルの空想した存在なのよ。ビンセント・ローを裏切った事実から逃避するための。だから、空想の中で、リルがあなたに殺されることで、彼女の分裂した自我は一つになるのよ。・・・もう一度、願望の過去へ。」


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・ベランダからリルを狙うビンセント局長。しかし、撃てず、願望の世界なのに、センツォン号に閉じこめられているピノのところへ。ピノの姿形だけは、シリーズ登場当初の服と顔つき。
「ビンス!会いたかったよぉ。・・・ん?どうしてそんなモノ持っているの。」
「リルを・・・・ころさなくちゃなきゃならないんだ・・・」
「え?」
「彼女を助ける為に。」
「リルリルを助けるため?」
「ああ。」
「助けるのに、リルリルをころしちゃって大丈夫なの?」
「ああ・・・この世界は本物じゃないから・・・っておまえに、言ってもわからないだろうけど。」
「じゃ。殺そうよ。リルリルを。」


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・エルゴ・プラクシーを解放するピノ。そこにスワンが現れる。世界は次第に抽象的な背景に。
「これは現実じゃない。これはリルの空想の世界よ。だから、・・もう一人のあなたがリルを殺さなきゃならない。・・・・・ころせ。・・ころせ。ころせ。」
「違う・・・・始めに気づけば良かったんだ。いくらリルさんでも、・・オレはコレを手放したりしない。リルさんがこのペンダントを持っていた時点で、こんな世界、始めからアリはしなかったんだ。」


「じゃあ、ここにいるあなたはだれ?」
「・・・」
「この世界が偽りだったら、あなたは誰かしら。・・あなたはここにいるわ。・・その存在さえ否定するの?・・あなたは自分を見失っているのよ。・・だから永遠に居場所なんて見つからない。・・ビンセント。」
「・・・・だけど、ここではない。オレのいる場所は。」
「・・・気にくわない。どうしても・・はずせないんだもの。あなたの・・・これ。」
「・・・おまえも・・・プラクシー」
「他の女の香りがする男はきらいよ。この子もきっとそうおもっているわ」


★リルの姿形が立ち上がる。しかし、意識とセリフは、ビンセントのまま。
「それでも、オレはリルを守りたい」
「・・・・そう」


・スワンとビンセントが、仮構の空間で対峙しているところへ、エルゴ・プラクシーが突入する。銃の狙いをつけるリル。このエルゴは、スワンの象徴なんじゃないかな。スワンは死んだのか、生きているのか。
ピノ「だめー、リルリルー」
スワン「・・・さよなら」


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・センツォン号の操舵中に、はっと目覚めるビンセント。首もとのペンダントを確認する。船室から、リルが出て来る。
「・・・・・ここは・・・どこですか?」
「何を言っている」
「いいえ・・・」
「しっかりしろ、ロムドは近いぞ。」
「ロムド・・・」
「不安なのは、私も一緒だ。これからどうなってしまうのか、おまえも私も。」
リルの頬を自然に右手で覆うビンセント。リルも拒絶しない。


「我思う、・・故に君ありか・・・」
「ロムドにつく前に、そのペンダントを私にくれないか。」
「えっ?」
「言ってみただけだ。・・・少しは休め、ビンセント。」
「おやすみ、リルさん。」
「おやすみ、ビンセント。」