■エルゴプラクシー11白い闇の中/anamnesis_s佐藤大c出合小都美d?g久留米健吾寺田嘉一郎

すごい。面白すぎる。すばらしい。
まず、この回は、舞台劇ばりのケレンの効いたセリフ回しと、それに会わせた人物の細かな仕草の演出が素晴らしい。
また、3階層ぐらいある幻想のレベルを貫いて、未知の二つ知性と対話しながら、過去と現在、現実と幻想が混乱しシームレスに行き来する、舞台回しが格好良すぎ。そして、それを支える手練手管をつくした画面設計、画面遷移のタイミング。
セリフの繰り返しが非常に印象にのこる。劇中の繰り返しを承けて、最後に着地する、現実世界の句読点的由緒正しさといったら、もうたまりません。
リル「やっと見つけたぞ。」
ビンセント「・・・夢だ。」
リル「んなわけないだろ。ビンセント・ロー」・・・上手い。


一見、難解な回だけど、セリフと画面の格好良さだけでも、もう絶賛ですよ。
しかし、何よりもワタシに訴求してくるのが、何階層のも分かれた、メタフィクショナルな話の構造。神林長平ばりの、認識についての物語が述べられています。


結局、最後に、ビンセントが、涙を流して荒れ果てた野原によこたわり、リルに発見されるのが、一番確かな現実の基層。だけど、これと地続きと思われる、ピノが翼船で見る本の題名「VINCENT LAW」が、かき消えていく演出をみると、この世界そのものが、ビンセントの見ている仮構の世界って気がする。


それを思わせるセリフと状況は随所にあるし。
例えば、本は読む人間がいて始めてその内容世界が存在でき、意味を持つように、ワタシが存在し、ワタシが認識して初めて世界は存在するって言っている。
これは、ビンセントが、自分が何者であるかを思い出し、世界を認識しなければ、世界は意味を持たないという物語構造だといってるんですよね。たぶん。


また、個人的には、純粋な演劇空間としてのこの回の演出であっても一向に構わないのですが、この一見不可解な対話と独白で構成される世界は、SF的仕掛けで昇華される様子。
すなわち、(おそらく、電気信号の世界での)記憶の番人を自認し世界の実相を理解しているが観察者に留まる老書店主と、ビンセントの記憶に強制介入をしてでも世界をこじ開けようとする勢力の対話。
彼等にとって、ビンセントは、関心の的、そして、世界そのものであり、ビンセントが世界を認識しなおすことで、ナニカが始まるようだってところでしょうか。


それは、活動を止めつつある世界の生命循環という自然環境的なものかもしれないし、もっと認識論的な問題、劇中語られているように誰かが世界を想わないで世界は存在しないってことかもしれない。機械達は、世界を記憶の中に存在させておくために、世界を読む者を欲しているって話かもしれないし。


この回の、物語的感触は、やっぱりコレです。神林長平の「プリズム」の印象的な3つのフレーズ。
「わたしは想う、だから私がいる。」
「あなたを想う、だからあなたがいる。」
「あなたに想われて、私がいる。」
なんかこういう展開になるような気がするけど、どうでしょうかねえ。


◆◆以下メモ。◆
・この回、セリフとか場面が、いちいち格好良すぎて、メモしすぎだ。なに、この文字の多さ。アタマのオカシナヒトに見える気がしてきた。でも、この回は、このぐらい書かないと良さを思い出せないって気がしてさ。そんな回。バカな人間ですよ。
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・冒頭、荒廃した世界を一人で歩き、霧の中ビンセントがたどり着くのは、「CITY LIGHTS BOOK STORE」。この時点で、もう、あからさまに、夢幻の世界。ここが、現実の上位の第一階層。
「ようこそ、シティ・ライツ・ブックストアへ。旅のヒト?・・・どうだね、こちらへ?」
「しばしの時間を、良い感じで・・・お茶の葉が開くまで、まちましょう」


・シリーズ初期の頃のように、含羞と煮え切らなさを醸し出しているビンセント。ピノの行方をしらないかと聞くのだが・・・
「さあさ、まずは手にとってごらんなさいよ。」と勧めて、老書店主が片目だけ見開くの非常に効果的。コレもラストの現実に帰る前に承けがある。
この後にビンセントが手に取った本のタイトルが、「VINCENT LAW」


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・ここで、世界がもう一階層上がる。演劇的狂言回しのような仕草とセリフ回しで老店主が語り始める。
「どうやら彼は・・・まだ気が付いていないようだ。ここが特別な舞台であることに。」「ここは、言うなれば、彼の頭の中。」
「このようにたくさんの本が存在するためには、まずは、読む人間が・・社会と呼べるモノを作り出していなければならない。」
「・・・ただ、人間が社会を作り出すためには、言語での対話が必要となる。」「まさに、ニワトリと卵のような話。」
「どちらも相手が必要である・・・ということは、本が純粋に人間的な方法で確立されたと言い切る事は不可能だ。・・・それこそ神のような存在が与えたのではないかと、考えたくもなる。・・・あり得ないがね。」
「ルソーの言語起源説か・・・・さて、難しい話はこれくらいにして、引き続き数奇な運命の糸に操られた、この男の過去と未来を見ていくことにしようかねえ・・・・ふふふふふ」ぱちん


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・再び、階層を一段降りて、老書店主に観察される、ビンセント・ローの夢の世界。
・手に取った「VINCENT LAW」と題された本の中身は白紙。書棚に並ぶ本はすべて「VINCENT LAW」
「・・・夢だ」
「んなわけないだろ。ビンセント・ロー」
老書店主とSF的な対立関係にあると想われる声が語りかける。ビンセントが過去に関わってきた人たちがエルゴプラクシーの仮面で佇んでいる。
「(ここは、)なにものでもない。「あった」としても、ヒトには把握できない。たとえ出来たとしても、隣人には伝えられない。・・・・そんな処だ。知っているはずだろう?」


・プラクシによる惨劇が行われた時計台のある広場。
「・・・夢だ。」
「んなわけないだろ。ビンセント・ロー」
「オレは他者から見ると世界の一部だが、世界を眺める視点としてのオレは世界にはいない。俺が見るモノが世界であり、見る俺とは、あくまで世界を構築する視点。世界に属することはできない。」


・ビンセントを見るビンセントが描写され、舞台の書き割りのような部屋。カメラは上昇していき、円形の迷宮に位置する舞台が表現される。
「(ここは)なにものでもない。「あった」としても、ヒトには把握できない。たとえ出来たとしても、隣人には伝えられない。・・・」


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・ここからは、もう舞台、演出空間としての手練手管を味わう感じかな。いちいち格好良すぎ。


・ビンセントの取り調べのシーン。セリフを変えて同じシーンが繰り返される。
「あの・・・感染オートレイブが目撃されたという情報があったので」
→<ちがうなあ。われ想う、故にわれありではないよ。>
「でも、本当なんです。施設のデータを調べてもらえば。」
→<・・そう。われ想う、故に君ありだ。・・・覚えていないだろうがね。>
ビンセントが想うことで、仮構が、事実になったということをいってんでしょうかね。


・第5話のフゥーディじいさんと防護服を着たリルさんとの対話の場面を借りて、<声>がビンセントを問いつめる。
「プラクシィとは・・」→<おまえだ。>
「やつらは何にだって化けることが出来る。自在に姿を消すことだって造作もない。・・」→<それが、おまえだ。>
「人間の中に入り込み、ココロを操ることも出来る」→<おまえだよ。>
「稲妻をだし一瞬にして、この地を焼き尽くすことも」→<思い出せ>
「火を噴く惑星をよびだしたことのあったぞ」→<エルゴプラクシー


・また、カズキスやピノの姿を借りて、ビンセントを問いつめる声。あざけるように問いつめるたびに、寝ている本が取り上げられる描写がカッコイイ。
<では、おまえは誰だ。何者であるか答えてみよ。>
→「俺は・・」「ロムドドームに移民したあとは、オートレイブ処理施設職員として・・」
<その前は?>
→「FG暫定移民地区で職探しをしていた・・なによりそこで。リルさんに出会った・・」
<その前は?>
→「ロムドに移民する前、モスコドームにいた。謎の事故で都市が崩壊したんだ。恐ろしい光景だった・・」
<その前は?>
→「モスコにいた・・・」
<そこでは何を?>
→「・・・・今考えているところだ・・・」
<何を?>
→「・・・思い出せない。」
<なぜならおまえは思い出したくないからだ。さ、あ、俺の問に答えてみよ。><その答えが見つけられない内は、たとえ俺が答えたとしても、理解できないだろうなあ。>
→「なぜだ」
<いったろう。俺はおまえだからだ。>


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・第一階層の老書店主との対話に戻る。
「・・・夢だ。」
「んなわけないだろ。ビンセント・ロー」・・・で、Aパート終了。もう、格好良すぎ。楽しい。
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・やはり第一階層の老書店主との対話。
「anamnesis・・・その言葉は、記憶という意味と同時に、想起という意味を持つ。」「想起される記憶。ビンセント・ローとは何者で。何を恐れ、何を消した・・・この場所で。」ぱちん
・第一階層も第二階層と混濁。老書店主の顔がプラクシーに。そして、世界設定について、声が、語り出します。


<すべての自然が、ヒトが認識されるために必要な、生命サークルの営みを止めた。それらを語り続けた言葉の持ち主は既にこの舞台を去り、システムの幕は下ろされたかに見えた。>
<しかし、この朽ち果てた世界も、また、サークルであることから未だ逃れることはできていない。>
<なぜなら、おまえが未だ生きて存在しているからだ。>


<それこそ、世界もまた、生み出されたモノ達が存在し続けなければ、世界が世界として誰にも認識されず、存在出来ないことを意味する。>
<たとえば、うずたかく積み上がったまま、誰にも読まれず朽ち果ててゆく本のように。>


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・混乱した第一階層。老書店主と、<声>の対話。
「それ以上の介入はもうやめろ。神経が持たない。」ぱちん
「どうやら間に合ったようだ。」
「「(生命の摂理が)伴わないもの同士の闘いなど、むなしいだけだ。」
<うるさいじじいだ。>
「きさま・・・自我のコアまで介入するなど、記憶の番人に対する態度か。」
<全てを拒んだ記憶の番人など無意味だ。>


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・第3話のビンセントローの自由への跳躍の場面を被らせて、再びビンセントに認識の変化を迫る。
<命という名のシステム、という名の世界を、つなぎ止める為に、俺たち以外の・・誰かが俺たちを作り上げた。>
<俺はおまえだ。・・・おまえは俺だ。>


「俺は何も覚えていないのに・・・今・・分かった。・・・俺が、エルゴプラクシーだ。」
<覚えておけ、おまえはまだ失って知るべき真実の入り口に佇んだにすぎないのだ>ぱちん


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・冒頭のお茶の葉を入れたシークエンスを承けて。
「さあ、そろそろ三分ですね。いい感じにお茶の葉が開きました。さあ、めしあがれ。」


「必要なのは、受け入れること。でなければ、闇の世界で迷い、本当に大切なモノこそ見失いますよ」
「とうに受け入れてます。」
「それは感心。ではいったい何を受け入れたんです?・・さ、答えなさい」
「おれは、道に迷った。それだけだ。」
「よくできました。では、その先の道を指し示しましょう。ビンセント・ロー、いや、エルゴプラクシー!」ぱちん
老書店主が左目をゆっくり開く様が冒頭を承けるカタチで、演出されて決まっている。

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・最も現実に近い世界。ビンセント、涙を流しながら、荒廃した地面に横たわる。
「やっとわかった・・・俺は、プラクシーだ・・・・」