■帰ってきたウルトラマン33怪獣使いと少年s上原正三d東條昭平特技d大木淳

メビウス第32話「怪獣使いの遺産」が(私にとって)意味不明だったため、見てみましたが・・・・ヒーローモノとしてのタブーを犯すものすごい挑戦的な内容で、非常に素晴らしい。必見。
画面的にも、随所にキチンと構図を設計して演出している様が伺え、重厚で見応えがあります。
特に、物語冒頭の雨に煙る不鮮明な画像の中、少年に迫る怪獣ムルチ、また、Bパート最後の怪獣とウルトラマンとの戦いのセット特撮での雨の中の闘争を、横に流れていくカメラで撮影したところは、素晴らしかった。


さて、この話のポイントは、ウルトラマンが守るべき「善良な市民」が、理不尽な差別感情と暴力に突き動かされて、群れなして浮浪少年を捕らえ、その保護者である宇宙人を殺害するところ。
ウルトラマンである郷秀樹は、この状況に翻弄され、茫然と見守ることしかできない。


守るべき市民の負の感情のすさまじさを目撃にした郷秀樹は、宇宙人が封印した怪獣がその死とともに解き放たれて市民達を襲う様をだまって見つめる。
彼には、もはや彼等に正義と守るべき価値があるように思えなかったから・・・・
「早く怪獣をたおしてくれようっ」
「勝手な事を言うな。・・怪獣をおびき出したのはあんた達だ。・・(怪獣の暴れる様は)まるで金山さんの怒りが乗り移ったようだ・・・・」


ここで物語を放り投げれば、更に素晴らしかったのですけど、そうも行かない。郷さんは、虚無僧のなりをした人物(帰ってきたは追々全話見直そうと思っているので、その正体、(私には)不明なれども放置しておきます)に、促され変身するのでした。


◆◆以下メモ◆◆
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・湾岸の工場地帯を乾いた槌音とともに演出する画面が随所に挿入されて、荒れ果てた心象風景の定番演出ながら、この文明批判的雰囲気は大好き。


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・廃屋に住み着く宿無しの少年を、彼が掘った穴に埋め、泥水をかぶせる中学生達のいじめぶりが凄まじい。
・郷さんに助けられて、埋められて身動き出来ないまま、泥にまみれた顔で涙をこらえる様の演技が素晴らしい。切れ長の目の浮浪少年の顔がいいな。
・郷さんに掘り出されたところの地平を斜めにしたカット。


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・いじめっ子達が三角錐状の構造物にタイヤをつるした遊具の上で、ふんぞり返っている場面は、図象的で印象に残る。


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・廃屋で作っているおかゆをこぼされて、泥にまみれたご飯を鍋にもどすところ。更に下駄で踏みにじるいじめっ子。・・・・泣ける。
「へー、宇宙人がないてらあ。」「くやしいかよう」「宇宙人やろう!」


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・郷さんが少年の身の上を調べ、隊長に語る。
「少年の名は佐久間りょう。昭和33年4月5日。父トクゾウ、母ヨネの長男として江差に生まれる。・・昭和37年9月、りょうが4歳の時に一家でミヤマ鉱山の移っています。・・昭和38年、冬にも炭坑が閉鎖されて、トクゾウは職を失い、東京に出たまま蒸発。・・昭和40年母よね死亡。その直後佐久間りょう行方不明、・・・となっていますが、父親をおって東京へでてきたんでしょうねえ。」(郷)
「天涯孤独になったりょうくんは、どんなに父を憎み、また慕ったことか。・・・郷、確か君も。」(隊長)
「はい。・・でも私には、MATというウチがあり、隊長という父があります。」(郷)
「うん・・・りょうくんはあの廃墟の中に、父親に似た愛のぬくもりを発見したんではないだろうか。もしその父が宇宙人で、そのためにりょうくんが宇宙人呼ばわりされて乱暴されて、情愛の絆を断たねばならないとしたら、・・・それは絶対に許されん。・・・日本人は、美しい花を作る手を持ちながら、いったんその手に刃を握るとどんな残忍きわまりない行為をすることか。」(隊長)


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・リョウくんが食パンを買いに、街へ出て行くくだりはヨカッタ。
・少年が持つ、骨が折れた折りたたみ傘。口々に宇宙人が来たと声高に声を掛け合うヒトビト。商店街の雑踏。
・パン屋で「食パンください」という少年にたいして、「悪いけどよその店に行ってよ」というおばさん。じっと立ちつくしてパンを見つめる少年。じっくりとカメラを据えて、緊張が高まるカンジがいいです。


・キツネ目の店員のおねえさんの、「世間の目」からの跳躍がカタルシスがあるかも。
「ボク!・・・・待って!」
小田急線の脇の道で、踏切音が鳴る中、「はい」と食パンを渡すおねえさん。
「同情なんてしてもらいたくないな。」
「・・・待ってよ。・・・同情なんてしてないわ。・・売って上げるだけよ。だってウチパン屋だもん。はい、120円。」


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・Bパート冒頭の線路を歩く少年を地平を斜めにしたショットで演出。


・Bパートで始めて廃屋に宇宙人が居ることが描写されます。彼は、地球観測に来たことを語り、そして、倒れていた少年との出会いを語る。そして。
「それ以来、りょうとはまるで親子のように暮らした。・・わたしはこのまま地球に住み着いてもいいとさえ思えました。・・・しかし、秋が来て、枯れ葉が散るように私の肉体も、汚れた空気に蝕まれて、朽ち果ててゆく。・・あの車も、あの煙突も、シロアリのように・・・私の肉体を。」


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・宇宙船を隠した場所がわからなくなった・・・ってのは、突っ込んじゃいけない気がした。「穴掘りをする少年」というビジュアル優先ということで。


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・竹槍を持って、少年を襲う市民達。この辺りの手持ちカメラでの群衆の動きに寄り添った撮影がすごく成功していると思った。
・警官の銃で宇宙人は死ぬ。このシーンと、怪獣出現のつながりが非常に上手くいっているかも。


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・ラスト。メイツ星人の星でおじさんが待っていると思いこもうとする少年は、穴掘りをやめない。
「いったいつまで掘り続けるつもりだろう。」
「宇宙船を見つけるまでは、やめないだろうな。」
「彼は、地球にさよならが言いたいんだ。」