■KILL BILLキル・ビル Vol1_s&dクエンティン・タランティーノ

2003年作品 
◇アニメーション版のブラックラグーンで、悪漢もの、そして派手で不自然にカッコいいアクションに魅力を感じるようになってから、何を見ようかと思っていたところ、たまたま手に取ったのが、本作。(だって実家に落ちているのだもの。)


今でこそアニメばかり見ている私ですが(俺どうしちゃったんだろう・・・・)、ほんの3年前ぐらいまでは、月に2〜3本は必ず映画館に行くという生活を大学以来続けていました。(映画を見た後の記憶が消滅するのも早いんですが・・・・)
その中で、タランティーノ監督関係といえば、「パルプフィクション」、飯田橋のギンレイ・ホールで見た記憶も鮮明な「レザボア・ドックス」と脚本作「トゥルーロマンス」のカップリング、同じく脚本のみの「フロム・ダスク・ティル・ドーン」、同じく脚本のみの「ナチュラルボーンキラーズ」、ジャッキーブラウン・・・・・というカンジで、おや!気が付けばほとんどの作品を見てますね。


しかし、彼の作品は、私が英語の台詞を十分吸収できていないこともあって、知的なダイアローグと練りに練った構成でつないでいく一方で、それと相反する過剰で唐突な暴力とのギャップを味わうものだとばかり思い込んでいました。(特に!パルプフィクションの印象。・・・ガン・アクションのカッコよさはあんまり視野に入っていなかった。)


そうして、そうした反社会性と暴力性をファッションとして楽しむ、オシャレな人々が好むジャンルの作品として、心の片隅に放置されたのでした。(まあ、「フロム・ダスク・ティル・ドーン」でおかしいなとは思っていたんだけれども。)


◇さて、キルビル見ました。
・・黒人女性「コッパーヘッド」と、ザ・ブライドとのキッチンでの戦いから説き起こし、全ての起源であるザ・ブライドの悲劇について語るくだりは、まあ、そうだよね、タランティーノっぽいよねと思ってみていたのですが、千葉真一の怪演(ほんとにもう・・・嬉しすぎる)が炸裂する沖縄編から妙なドライブがかかりだします。


千葉真一服部半蔵!・・・・・個人的には、これがこの作品の象徴かな。
この後も日本のやくざもの、ヒロインのブルースリーばりの黄色の奇妙な服装、香港カンフー映画風のワイヤーワーク、ガンダムハンマーみたいな得物での戦い、日本風家屋での一対多数での圧倒的な一が優位なチャンバラ戦(それこそバッタバッタとなぎ倒し・・・・というカンジ)、2階のはずがふすまを開けるとなぜか雪景色、雪景色の庭園でやくざ映画ばりの一対一の決闘・・・・・トドメはこぶしの利いた女性演歌が!


この作品、あえて言えば、頭の悪い中学生の妄想があふれ出している!(これは悪口じゃないです)
すごい酩酊感で、ひょっとしてこれがタランティーノ監督の本性なのかと改めて思った次第。
それにしても、タランティーノは、千葉真一が大好きなんだなあ。(千葉真一に始まり、千葉真一に終わる構成・・)


◇たしかに、昔のB級アクション映画をこよなく愛するという人柄については本で読んでいて、パルプ・フィクションなども、そういった過去の映像印象を寄せ集めて、いわば、メタ映画として成立させているという批評は読んだことがあった。しかし当然、私たちはアメリカに住んでいるわけじゃないから、実感をもって理解するところまでいっていなかったのですよ。


しかし・・・・・千葉真一、銃ではなく刀、ギャングではなくヤクザ、英語ではなく日本語、ガンアクションではなく殺陣で語られる部分の、血しぶき飛び散る馬鹿馬鹿しい祝祭のようなノリ!!


これを見た後だと、すましたカンジのパルプフィクションが、実は、キルビル風に受け止めるのが正しいような気がしてきました。


◇ということで、この作品は何も考えず、ひたすらカッコよくて癖のある大げさなアクションと演出を楽しむのが正しい見方じゃないかな。
WEBを見ると、大量の元ネタがあるらしいのだけど、うーん、俺にわかるのは「影の軍団」だけだ。
だけど、私が80年代初頭に感触を味わった一世を風靡したカンフーものや、日本人の本性に刷り込まれている時代劇の殺陣など、なんとなくノリの雰囲気はわかるってのがポイントでしょう。


これは、癖になるかも。あー、面白かった!


◆◆以下メモ◆◆
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◆第一章
・冒頭の「コッパーヘッド」とのキッチンでの闘争の終了後、千葉真一のナレーション。
「武士たるもの・・・戦いに臨んでは、唯、己の敵を倒すことに、・・専念すべし」
「一切の喜怒哀楽、・・さらに、・・情けは無用なり。」
「・・・邪魔だてするもの・・それが例え神といえども、仏といえども・・・これを斬るべし。」
「これすなわち、戦いの根本に隠れし、極意。」


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◆第三章
・PRODUCTIN I.G.のスーパーバイオレンスアニメーション。
・オーレン・イシイの過去。
・アニメパートの監督中澤一登さんと、西久保利彦さん。
・EDクレジットで確認できる主要作画メンバー。カタカナは私が存じ上げない方です。勉強不足ですみません。
宮沢ヤスノリ
磯光雄
高橋ヒデキ
石本エイジ
山下タカアキ
前田真宏
すしお
ササジマケイイチ
恩田尚之
大平伸也


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◆第四章:THE MAN From OKINAWA
千葉真一服部半蔵の初登場のシーン。「酔生夢死」と書かれた額を飾る小さな寿司屋に、ザ・ブライドが訪れる。野太い声で。
「はぁい、いらっしゃーい。・・・・・ウェールカム」(服部半蔵
・・・・もう、ここから、いままでのクールななタランティーノタッチは霧消し、異次元の扉にようこそってカンジになってます。そして、ここからラストまでがこの作品の尽きせぬ魅力の発動。


・「あーい、お客さん!あがりいっちょーう!頼むよ!急いで!」(服部半蔵
「いまー、大好きなー、昼メロみてんだよう」(弟子)
・・・・半蔵と弟子の妙なノリのギャグシークエンス・・・・はじめてみるとどうかなと思ったんですが、なんというか、二度見ると千葉さんの演技の味わい深さが五臓六腑にしみわたります。


・ハットリ・ハンゾウに会いに来たと言うザ・ブライドに、半蔵は食器を取り落とし答える。
服部半蔵にいったい、何の用ですか。」
「ニホン刀ガ、ヒツヨウデ・・・」
「いったい、日本刀を何に、使うんですか。」
「斬リタイ、ネズミガ、イルカラ・・・」


・ザ・ブライドの目的、自分の弟子=ビルへの復讐と聞き、封印していた刀鍛冶の腕を振るう服部半蔵。完成した刀を前に語る。
「28年前、・・もう二度と作らぬと神仏に誓ったことをわたしはやぶる。・・・そして・・やり終えた。・・・ヒトを殺す道具を再び作ってしまった。・・その目的では、私は成功した。・・・私がこれをつくったのは、達観すれば、お前の目的に同情しているからだ。・・・自惚れではなく、これは私の最高傑作。・・旅の途上で、神がた・神が立ちふさがれば、神をも切れるであろう。・・・銀髪の戦士よ、・・行きなさい・・・」
「ドモ」
・・・・・千葉さんの熱演(若干噛んでいますよね?)の後のユマ・サーマンの、この「ドモ」で爆笑しちゃった。そりゃないよー、ユマさん。


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◆第五章:Showdown at House of Blue Leaves
・冒頭、日本酒を一升瓶でラッパのみする栗山千明に爆笑。
・ところで、個人的には、すべからく奇妙な味のギャグとして楽しめるのですが、真剣な話、沖縄編以降の、言ってしまえば「演出力の低下」は、なんなんでしょうね。監督に日本の文化的な深みある理解が無いために、(我々が見たときに)かなり下等なギャグになる演出と、ぎりぎりクールにとどまる演出の見極めがむずかしかったんじゃないかなーと、思った。


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・ヤクザの会合で、反逆する田中親分とオーレン・イシイの対話。
「タナカサン・・・ダラクトハ・・・どういうことデス?」
「ミナサン・・・タナカノオヤブンハ・・・胸にイチモツ、オアリノゴヨウス・・是非・・・本音をオキカセ、イタダキマショウ。」


「ワタシノ真剣ナキモチを、・・ご理解イタダクタメ、・・ココカラ英語で話シマス」
なんか、明らかにムリして、加減がわからなくて硬くなっている日本語モードから、妙に生き生きとした英語モードに変わるのがおっかしー。


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・ザ・ブライドが沖縄から東京へ向かうシークエンス。
・わざわざ飛行機や、そこから見下ろす東京の市街地(香港じゃないんだから!)をミニチュアワークで再現したりしているのは???というカンジなんだけど、飛行機に自然体で刀が持ち込んでいるザ・ブライドとか、バイクに刀をさして走るオーレンの部下とかをあわせて考えると、これから完全な「俺ワールドにはいるぜ!」というタランティーノの宣言なのかな。
・ザ・ブライドの服装、東京に着くや否やブルース・リーになってるし!


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・いよいよ、この作品の最大の見所である青葉屋のシークエンス!
・気配をオーレンに悟られて、天井に張り付いて難を逃れるザ・ブライド。プルプルする様に爆笑。達人なんだから、じっとしてようよ。


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・ザ・ブライドの咆哮一発、死闘が開始されるのでした。
「オーレン・イシイー!ショーブは!まだ、ツイチャイナイヨー!」


・それに答えるオーレン・イシイ
「ヤッチマイナー!」


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栗山千明にこんなに見せ場があるとは。ガンダムハンマーみたいな得物をもって登場。
「はぁ〜い」
「ゴゴ、ダネ?」
「ビンゴ。そっちは、ブラック・マンバ。」
「噂ガ、ヒトリアルキ、シテルミタイ、ダネ」
「そうだねえ。」
得物を振り回して、パンツ見えそうな熱演を繰り広げてます。


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・「マダ、命がアルモノ。・・ソレハ持って帰ルがイイっ!・・・タダシ。無クシタ、手足は、オイテッテ、モラウヨ・・・。コレハもう、私のモノダ・・・」


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・なぜかしんしんと雪が降る庭園でのオーレン・イシイとの一騎打ち。
「どこで作ったンダイ・・?」
「オキナワ」
「オキナワの誰が、ソノ刀をツクッタ?」
「ディスイズ、ハットリ・ハンゾウ、ステッド」
「ウソツケー」


「サッキハ、馬鹿にシテ・・・ワルカッタネ・・・」
「・・ワカッタ。・・・イクヨ」
「・・キナ」


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・「ホントニ、・・ハットリ・ハンゾウの刀ナンダンダ・・・・」
勝負が付くと、日本語の演歌が!梶芽衣子さんの「修羅雪姫」の主題歌だそうです。


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・ラスト、タランティーノらしい凝った構成で話をまとめている最中に!
「復讐とは、決してまっすぐな道ではない。・・・むしろ森だ。森の中では道に迷いやすい。・・自分の位置がわからず、どこから来たかを・・・忘れる。」(服部半蔵