■キャリー_脚本ローレンス・D・コーエン_監督ブライアン・デ・パルマ_撮影マリオ・トッシ

1976年作品。原題:CARRIE
スティーブン・キング原作。
若かりしジョン・トラボルタが、いじめに荷担する役で出ています。これがデビューに近いらしい。
ブライアン・デ・パルマ監督の作品は、意識して見たことがなかったので、意識して見ようのその1。正月に見て大変面白かったキル・ビルタランティーノ監督が大好きらしいので、気になっていたのです。


◇さて、映像設計的には、尻上がりに画面の作りが技巧的になっていき、惹き付けられました。
また、物語的にも、虐げられた少女が、つかの間の幸せを味わったあと・・・・というメリハリの利いた、大変共感しやすい作りになっているので、とても面白かった。
キャリー、冒頭はそばかすだらけで、肌も汚い様子が演出されていたのだけど、中盤から非常に可愛らしく演出されていて、その悲劇性が際だちます。
当時、猖獗を極めた、B級テイストのホラーを、画面を設計し工夫を凝らして、リリカルな音楽で上品に演出してみると、ほらこんなに切なくも、恐い話になるよ、というカンジでしょうか。


◇正直言うと、冒頭の女子更衣室のワンショットでの長回しは、なかなかいいじゃんと思ったものの、前半1/3程度を占めるキャリーのしょぼくれた学校生活、同級の女子達にいじめられる様は、うーん、あまりにも普通な画面で、誉めるところが無くて困ったと思ってしまった。(生意気な記述でごめんなさい。)
画面的にも、色彩の薄いくすんだ映像で、体操をする女子学生の揺れるチチとか、冒頭の更衣室の無意味なハダカの乱発、1970年代のアメリカの映画でお目にかかる田舎モノ丸出しの都市生活者の貧相な顔つきなども相まって、ううう、所詮、B級ホラーなのか・・・・と、思っていたら。


◇この作品の真価は、中盤の卒業パーティでの輝くような映像から爆発し出します。リリカルな音楽も相まって素晴らしい。
考えてみるに、キャリーの冴えない学園生活をくすんだ画面で表現し、次に、クラスのハンサムな男の子トミー・ロスにエスコートされて卒業パーティに向かう、母親の呪縛からも自由になった、まさに輝くばかりの希望に満ちた画面。
そして、最後が、赤一色のモノトーンの画面で彼女の世界の没落を表現しているといった感じで、中盤の輝くようなパーティの演出と、凝った画面作りが、全体の構成のキモになっているのかしら。


◇中盤の卒業ダンスパーティは、キラキラしていて全編が魅力的なのだけど、特に、キャリーをエスコートする男の子とくるくる踊る場面を、バストアップを映したやや下の視点から、カメラ自身も回りながら映して、段々踊りのスピードが速くなっていくシークエンスが最高だった。素晴らしい。


また、パーティのベストカップルの選出で、キャリーに恥を書かせるべくブタの血をたたえたバケツが、天井に設置されている様子を、段々と上昇していくカメラが俯瞰でとらえるところもいいカンジでした。
全般に、キャリーが次の瞬間に血を被ることが分かっていながら、演出は焦らし焦らし、見ている私達はハラハラするという最高の状況で、この作品のハイライトでしょうか。


また、ベストカップルに(企みとはいえ)選ばれたキャリーとトミー・ロスの控えめに嬉しげな様子、微笑ましく見守るヒトビトの親愛の溢れる様子が、若干のスローな映像送りと、主張しすぎないロマンチックな音楽で丁寧に素晴らしく演出されていて、この後の惨劇を効果的にしているかな。


◇さて、いよいよホラーとしてのこの物語のキモが始まります。この阿鼻叫喚の図は、画面分割で表現され、おお、これが、デ・パルマ監督を特徴づけるスプリット・スクリーンか!と、結構感動した。
分割画面間の関係性を意識し、しかも自在に分割画面を動かすこの演出は、画面構図に、意識して理知的であろうとする究極の演出かも。堪能しました。(考えてみたら、最近のアニメーションで言えば、新房昭之監督の「ぱにぽにだっしゅ!」や「ネギま!?」で頻出する手法だ。この辺りの影響なのかしら。)


◇さて、ラスト。もはや、物語倫理的にキャリーは裁かれなければならない。
茫然として知的に麻痺して、血まみれで帰宅した自宅には、家中にロウソクが灯り・・・・・さながら、あの世への入り口、現世に別れを告げるトンネルのよう。
悲劇の予感をはらみ、しかし非常に美しい。キャリーも見ている私達も、この異界の風景に恐れおののく理由は十分にある。
そうして、時間をかけたゆったりとした演出の手つきで、人の悪い演出者たちは、最後の時を演出するのです。


◇ところで、キャリーの母親の心理的な病が結構リアルかも。性を抑圧し、宗教に狂い、娘を自分の所有物として縛り付ける親。
結局、母親の自我の呪縛から逃れられなかった、キャリーが不憫すぎるよう。・・・・・・うう、カワイソすぎる。


あと、忘れてはいけないのが、キャリーのお母さんのサイコ描写。キャリーが自分に逆らって、パーティに行った後、台所で、まな板の上のニンジンを、大きく振り上げた包丁で、執拗に「切断」する様を、傾いた構図の俯瞰から映したところなどが印象にのこるかな。


◇結局、キャリーをいじめ抜いた首謀者は生き残っているけど、彼女は永遠に・・・・・・・・ラストは、意表をつかれてしまったよ。
◇非常に、印象に残る映画でした。個人的には、ホラーよりも、中盤の青春映画としての演出がとてもヨカッタ。