■キャシャーン Sins 24巡り咲く花へs小林靖子c&d山内重保d助手木村延景中山奈緒美g馬越嘉彦

キャシャーン Sins
◇最終回。
◆死にゆく親しきものたちの傍らで、為す術もなく静かにその死を見つめるキャシャーンキャシャーンは何もしない。ただ寄り添い、その死に嗚咽するだけだ。


◇・・・なんというか、奇跡も起こらなければ、倒すべき巨悪もおらず、ただ悲しい瞳で死者を弔い、死を忌み嫌いもてあそぶ不死者ルナに、死あってこその生だと激情を胸におさめて説諭し、そして静かに去って行くキャシャーンを描くこの最終回は、いまだかってアニメーションでは見たことのない静かで厳粛な余韻を残します。


◇画面設計と色彩設計とカットの積み重ねもあって、(ヒーロー物的なシンプルな物語性を完璧に放棄しているというのに!)これほど独自性に溢れて、見応えがあり印象的な最終回を見たことがないや。この突き抜け方はすごいです。素晴らしくオリジナルな最終回。


◆ただ、話としては、非常に分かりにくいよね。個人的には、ルナもキャシャーンも、神のポジションのキャラクターだと思えばいいと思うんだ。


◇いわば、このシリーズは生と死を巡る原初の神話なんですよ。生命が過剰ないびつな世界から、死が過剰なやはりいびつな世界に変転し、そして、最後に「有限の生」を謳歌する豊かな人生に溢れる「我々の普通の世界」の予感が描かれる。


神話だから、物語性をほとんど放棄して、ひたすら生を巡る思索を深めるための話を繰り返す。


◆◆◆さて、自分がすっきりするためにこの世界の構造についての思いつき解釈を書いてみようかな。以下、超オレ解釈なのであしからず。


◆元来、月の神ルナが「永遠の命を持つロボット」に「死」を与えてきた原初の世界秩序があった。世界の運行には「死」が必要だったけれども、生と死が圧倒的に分離したいびつな世界。


◆その秩序は、「死」を否定し、「永遠の命」を得たいと願うブライキングボスといういちロボットによって創造された「死の化身」キャシャーンによって破壊される。


◇月の神ルナは、「死の化身」たるキャシャーンに殺されることで、自らの属性であった身内の「死」を世界全体にまき散らす。そして、死によって殺された死の象徴たるルナは、意味が反転して生命の象徴である「月という名の太陽」になる。


◇この時点で、それまでルナによって死を与えられない限り「永遠の命」を持っていたロボットひとりひとりに「死」が内臓されることになった。死は、世界にあまねく遍在し過剰に世界を席巻する。


◆バランスを取るように、「月という名の太陽」となった神ルナは、尽きない生命を周りに与えるようになる。かっては生命に溢れた世界に死を与えていたルナは、死に溢れた世界で生をもたらす存在となる。


◇ただ、これも歪んだ世界。かって「永遠の命」を謳歌していたロボット達は、「死」を前提とした「生」を認められない。だから、「永遠の命」を泉のように溢れさせる神ルナにすがり、救いを求める。
ルナもかっての自分の属性である死を忌み嫌い、「永遠の生命」こそが理想だと考える。


◆さて、一方、元来ルナ同様に「死の化身」であったキャシャーンも、ルナの体からほとばしる死に満ちた血を浴びて、意味が反転して「永遠の生命」を身にまとうことになった。


◇だけど、ルナと違うのは、「永遠の生命」を得た瞬間に彼が「白紙の存在」となったということ。白紙の彼は、生まれたばかりの曇りのない目で世界を見る。


◇かってロボット達にとっては、「永遠の生命」は大前提だった。しかし、その前提を持たない白紙のキャシャーンは、数多の生命の燃焼と死を目撃し、「永遠の命」は希求するべきものではなく、「有限の生」にこそ活力と価値があり、尊重すべきものだと思う。


◇そして、神キャシャーンが、そのような世界こそが理想だと願い、神ルナの間違いを正しく指摘した時、世界の秩序は変容を始めたのだ・・・・・・・みたいな感じでどーでしょうか。個人的にはちょっとすっきりしたよ。


◆◆以下メモ◆◆
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「昔、私は、死を与えなければならなかった。・・来る日も来る日も殺し続けて、・・毎晩私の耳にはうめき声が・・・・・・。生きている者が・・死ぬのは不自然だわ。死は穢れた悪よ。滅ぼさなければ・・・・」(ルナ)
「だが、死を滅ぼすのも死だ。・・お前は昔と同じように、死をばらまいている。」(ブライキングボス)
「今だけです。今が終われば、今度こそ死は世界から消える。・・・そして、永遠の世界が・・・・」(ルナ)


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「あのね。毎日何かひとつ嬉しいことがある・・・って、言っていたでしょ?今日はこれ。・・・死にたくないって思えたこと。」(リューズ)


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・Bパート、リューズの死を機に反転するキャシャーンの不穏な空気の演出とそれに怯えるルナのシークエンスが非常によかった。
キャシャーン・・・・・キャシャーンが来る・・・」(ルナ)


「死があんなに・・・・早く止めて!キャシャーンが、死をつれてくる・・死は嫌い・・・。(・・・)殺して!・・・・キャシャーンを、早く!」(ルナ)


「来る・・・・滅びが・・・・死が。」(ルナ)


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「死を忘れると・・・・どうして命まだ忘れてしまうんだろう。」(キャシャーン


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「ルナを殺す気か?どうして気が変わった?・・・いまさらお前と戦う意味もねえが、ここへつれてきた奴らを背負ってるんでな。・・・・通すわけにはいかねえ。」(ブライキングボス)


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「生きてるものは死のにおいがする。・・生きているから、愚かで醜い死が訪れる。・・どうして!私は永遠の命を与えたいのに!」(ルナ)


「あの時、私達の血が・・・」(ルナ)
「生と死の血が・・・」(ルナ・キャシャーン
「混じり合った。・・・世界が、・・・変わった。」(ルナ・キャシャーン


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「私を殺さないの?」(ルナ)
「殺さない。・・・まだ生きようとして君を目指している者達がいる。・・君は助けなきゃいけない。」(キャシャーン
「・・・いいの?永遠の命を与えても?」(ルナ)
「生きられるなら、その方がいいんだ。僕に否定なんて出来ない。・・ただ!君が、君たちが、死を忘れたら、僕は戻ってくる。」(キャシャーン


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キャシャーンは二度と戻ってこなかった。キャシャーンは死を知らない者達の死になった。そして、私は、・・私はたぶん、生きてそして、いつか死ぬ命を持った最初の・・・・・。世界中の命がそうなった時、会える!キャシャーンに。キャシャーンに会える時まで私は、生きていく。」(成長したリンゴ)