■ミチコとハッチン15いたずらにグラフティs宇治田隆史c&d岡佳広g安彦英二総g清水洋

ミチコとハッチン
◆使い古された恋愛物語の要素をちりばめながら、ギリギリの所で陳腐にならず踏みとどまった、まったくもう、みずみずしい好編。素晴らしい。


◇この回は、中南米の乾燥した空気と通り雨のしっとりとした感じ、顔を見せる紺碧の空と太陽の光、そんな港町の活気の中で交わされる爽やかな少年と少女の物語。二人の出会いは、「少年の現実への回帰」と「少女の新たな夢想の始まり」という結末をもたらす・・・・・ってな感じでしょうか。


◆この物語は、まず、「親しい人」の死に囚われて、「見たくない現実」を見ずに記憶を封印してふわふわ生きている男の子の話なんだと、私は思いました。(違うかも。オレ解釈かも。)


◇この死んだ親しい人については、明確には語られていないけど、たぶん、反目していた家族なんでしょう。(彼は絵本的な演出を凝らした夢想空間で「怨んでなんかいない・・・・僕は、まだ、あなたを、愛している。」と述べている。また、劇中で語られる彼の愛読書「雨の中のトッカーノ」は、雌鳥トッカーノの家族を捜す話だ。)


◇ラストで、彼がハッチンに記憶を取り戻したと述べ「ガス爆発の部屋に住んでいたハッチンに似た少女」に本を読んで欲しかったと言っているのは、「自分の現実」を取り戻すきっかけをくれたハッチンに感謝の気持ちを伝えるためなんじゃないかな。


◆さて、彼は、古本屋の店先に展示していある彼の愛読書「雨の中のトッカーノ」にひどく関心を示し、通り雨があがったあとに立ちつくし太陽を透かし見るハッチンに、彼の夢想世界に君臨する「天使」を感じる。
「信じられるかい?・・君の指先が今、僕の心にふれたんだ。」


◇彼は彼の夢想の世界が具象化した「天使=ハッチン」に夢中になり、その世界に触れたいと熱望する。だけど、ハッチンは、彼を拒絶するんだ。
「夢想の世界の象徴」から拒絶された彼は、ひっそりと現実を顧みる。


◆しかし、この回の本当に良く出来ているところは、この少年の「現実から逃げ出している感じ」がものすごくハマって演出されているところなんじゃなかろうか。
それこそ「鳥のように自由だ」という老書店主の彼を評する言葉どおり、ふわふわと地に足がついていない感じがよーく伝わってきました。


◇声優さんの、ぼーっとしていてフラットな優等生的な演技や、透明感の強いキャラクターデザインもあって、この感じがとーっても良かった。


◆一方、熱心に接近してくる彼に最初はつれなくしていたハッチンは、少年の夢見るような瞳に触れて淡い好意を抱くようになります。だけど、出会って口をつくのは、拒絶の言葉。


◇別れの時が来て、彼についての思いを自分の心に糸を垂らして反芻するとき、ハッチンは心中に新たな気持ちが浮かびあがっていることに気がつく。
「あたし、すごく嬉しかった。・・・・ミチコぉ・・あたし苦しい。・・苦しい・・・・」


◇いわば初恋と別れによる痛みを最後の最後に落涙とともに見せるところがもう、よかったのなんの。


◆物語のアイテムとしての「本」をきっかけとした結びつきも、記憶喪失も、別れのタイムリミットも、使い古されていながら、だけどこの話は他の回同様やっぱり地に足がついていると思いました。面白かった。


◆◆以下メモ◆◆
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「私、本が欲しい。(・・・)籠の中から雌鳥をつれてね、少年が旅をする本。その鳥の家族を捜すの。ラランジェに居た時、ずっとこっそり読んでいて、でも、ミチコがきちゃったから。最後まで読めなかった。」(ハッチン)


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「捕まえた!そよ風さん」(レニーニ


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「トッカーノという鳥がいる。この国には居ない鳥だ。僕は彼女を連れて旅に出た。・・行き先は、彼女の望む世界。」(レニーニ


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「怨んでなんかいない・・・・僕は、まだ、あなたを、愛している。」(レニーニ


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「彼はね・・・記憶がないんだよ。・・事故があったんだ。三丁目の通りでね。ガス漏れの引火だった。・・その時飛ばされた何かが、歩いていたレニーニの頭にね、あたったんだ。・・目が覚めた時にはもう何もかも忘れていたんだよ。・・それを除けばレニーニは変わらなかった。今も昔も、鳥のように自由だ。・・記憶はね、必ず戻る。ただ今度は記憶をなくしていた間のことを忘れてしまうんだってね。ほとんどの場合。・・・その時君は彼を笑顔で見送ってやることはできるのかな?」(老書店主)


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「ちがうっ。わたし、会いに来たんじゃないっ。・・間違っているっ。」(ハッチン)
「ハナ・・・僕はね、ハナ。君と出会って何にでも感謝したい気持ちになった。・・凄く大切な何かを見つけたって、思ったんだ。」(レニーニ


「だけど、忘れるんでしょ!みんな忘れるんでしょ!・・私知ってます。あなたが事故にあったことも、記憶がないことも。」(ハッチン)
「忘れないよ。・・・絶対に忘れるもんか。・・自分がどんな人間だったかも覚えていない。生まれ育ったこの街だって知らない世界に見える。・・・僕は真っ白な世界の中だ。・・・だけど、僕は僕だ!・・・・・しっかり足跡を残して進んでいる。まだまだ真っ白な世界だけど、ひとつひとつ新たな記憶で彩っているよ。・・・君のこともちゃんと心に刻みつけた。・・・・僕を信じて。」(レニーニ


「もやもや、もやもや、させないで!・・・・嫌いだ。あんたなんか大っ嫌いだ。」(ハッチン)


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「いやだ。まだ戻りたくない・・・・ハナ・・・」(レニーニ