■キャシャーン Sins 18生きた時これからの時間s大和屋暁c&d山内重保g丸加奈子総g馬越嘉彦

キャシャーン Sins
◆いやあ、これは難しいな。
◆この回は、リューズの、「キャシャーンという存在」への憎悪と愛情のアンビバレンツなこころの揺れ動きを、全編、彼女の夢想の世界を舞台に夢らしいとりとめなのない構成で演出した、これはまた特異な趣向の回。
こういう抽象的でチャレンジャーな回は大絶賛したいのだけど・・・・初見では理解できなくて困りました。


◆特に、Aパート冒頭から長尺で入り、その後、状況の節目節目で挿入される画面の粒度を荒くした女性を被写体とした実写パートの、全体の演出上の位置付けと、そこで表現されている内容が良く分からなくて、いやあ、困っちゃった。


◇この実写パートは、敵意に満ち硬直していたリューズのキャシャーンへの気持ちが次第にほぐれて解放されていく様子を象徴的に演出していると、わたしは解釈したのだけども、果たして正しいのか。
・・・だってさ、そもそも、「画面に表現されている内容」が今でも良くわからないんですもの。わたしってば、バカじゃないかと、歯がゆい思くてとても居心地が悪い。


◆内容的には、<「キャシャーンは世界を滅ぼし、自身の姉を殺した仇」⇔「でも、私の気持ちはキャシャーンにどうしようもなく魅了されている」>というリューズの心の両極端の間の揺れ動きを、夢らしい非論理的な状況を設定して、何度も何度も描いていきます。


◇最初は前者が勝っているのだけど、夢想空間の中で葛藤状況が何度も繰り返されるうちに、とうとうリューズは自分の本当の気持ちに気がつき、最後には後者が勝るようになるという、リューズのこころの「転向」を描いているんですね、きっと。


◆ところで、このリューズの「心の変容」の演出の中で特異なのが、このリューズの葛藤にトドメをさすのが、彼女のキャシャーンへの(ロボットだからそれと意識していないという演出なのだけど)「性的欲望」であり、それを即物的に生々しく演出しているところかな。


◇前回もそうだけど、ここへ来て「性」「生殖」にまつわるモチーフがクローズアップされてきて、「ロボットの世界」「世界の滅亡」という主題を、どう結末へと持って行くかが非常に楽しみ。


◇だけど、残念なのが、この回のコンテ・演出(あと鮮やかな背景美術も目を引いた)がエッジが立っていて素晴らしいのに、シナリオがそれに追いつけていない気がすることです。やりたいことは(たぶん)わかるし、私もこうした趣旨の作品を見たいと強く願うのだけど、シナリオが牽引して物語として一本筋を通して着地するという手際の良さが見えない気がしました。特にリューズの性的願望を演出するくだりの、前後のトーンとの断絶が象徴的。何故、使い古されたナンパ師的黒人のイメージを(この回に先立っても伏線がないのに)置く必要があるのかしら。


◆さて、この回、繰り返し繰り返し描かれてトラウマ的な印象を残すのが、「ボロボロに崩れていく姉の身体のイメージ」の演出。ああ、恐ろしい。


◇悪夢にうなされて、「決して失ってしまってはならないものを喪失してしまう」という感覚に襲われたことは誰にもあると思うのだけど。この「取り返しのつかなさ」をよーく表現できているような気がしました。
ただし!、これについては、本編シナリオ、演出上の本来の意図とは違うところでわたしは反応しているような気がします、きっと。「姉の体が崩れる」イメージは、姉に託した「リューズの硬いドグマ」が崩れていくことを表現しているんだと思ったんだ。


◆◆以下メモ◆◆
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(0)「最近夢を見るようになったの。・・・何度も見るの!・・・しかも、同じような夢を。」(リューズ)


(1)現在の夢
「リューズ、・・・キャシャーンを殺して。」と言ってリューズに近づいてくる姉リーザ。リーザの体がボロボロに崩れる。


(2)幼少の夢
「守らなきゃ。(・・・)ルナを・・・私達はずーっとずーっと。私達はルナを守るのよ。」(幼少のリーザ)
「リューズ、キャシャーンを殺して!」(幼少のリーザ)
「できた!これがルナよ!」(幼少のリーザ)
リーザの指し示すルナは砂の造形物。


(3)現在の夢
リューズはキャシャーンと相対する。
「あなたを殺しリーザ姉さんの仇をうつわ!」(リューズ)
キャシャーンを殺したとおもったら姉さんだった。


リューズは、キャシャーンに胸を貫かれるさされる。
「胸が熱い。キャシャーンの手が私の胸を貫いているから。」(リューズ)
貫かれていたのは物理的な身体ではなくリューズの心だった。


(4)ニューヨークとかのダウンタウンっぽい路地裏の夢
キャシャーン・・・あの男は世界にとって危険な存在。ルナを殺した、・・姉を滅びに誘った・・・キャシャーンは世界の敵。何をすべきか、わかっていた。そのはずなのに・・・。」(リューズ)
キャシャーンは私とあなたの大事な人を殺した。・・・なのに。」(姉リーザ)


リューズは再びキャシャーンと相対。
「あなたは仇、私の敵、わたしはあなたを殺すために生きてきた。・・滅ばずに来られた。・・・なのに私は・・・」(リューズ)


(5)現在の夢
キャシャーンは殺戮兵器。狂気のかたまり。月という名の太陽を殺しただけでは飽きたらず、滅びに向かうこの世界の中で、狂ったように死を振りまいている。・・・・・・・あんたは最悪な存在よ。」(リューズ)
「・・・・なのに。なのにあいつは何も知らなかった。自分が誰なのかも。・・・どうしてこんな世の中になってしまったのか。・・・ルナを殺したことも。・・・何故自分が不死身なのかも。」(リューズ)


(6)ダウンタウンの路地裏の廃墟で、裸の自分がキャシャーンに抱きすくめられるのをみて衝撃をうけるリューズ。
「あたしとキャシャーン。・・・・キャシャーン!」(リューズ)


リューズは、唐突に登場する黒人(全体の演出のトーンを考えると凄くヘン!)に誘われ、性的行為を暗示したのち、相手を殺す。
「あんたの願いをオレがかなえてやるよ。」(黒人)
「・・・あたしの。・・・願い・・・」(リューズ)


「もしわたしが人間ならば、この気持ちの正体。わかるのかしら?・・・・・キャシャーンに恋している・・・」(リューズ)



(7)ふたたび幼少の夢
「考えて、悩んで、苦しんで、・・・でも、ひとりで道を見つけられる子になったのね。リューズ。」(姉リーザ)
「惑わせた、あたしの、罪ね。・・・でもそれで良かったのかも知れない。キャシャーンに会えたのだから。」(姉リーザ)



(8)現在の夢
キャシャーンが滅びの中でもがいているなら。・・・わたしも、・・もがく。・・・キャシャーンがルナを求めるなら、・・私も求める!」
キャシャーンが永遠の命なら・・・・・・・・・・・わたしは、私の命の限り付き合う。私も、・・・滅ぶ。わたし・・・」(姉リーザ)


「めげない子ね・・・めげない、あたし。」(リューズ)