■墓場鬼太郎03吸血木s長谷川圭一dうえだひでひとg岡辰也

◆原話「吸血鬼と猫娘」「水神様が町へやってきた」から、寝子さんの正体と芸能界デビューの話、ニセ鬼太郎と地獄についてのTV討論、地獄の道行き、水神(みずがみ)などの話を引っこ抜いて、トランプ重井(原作だとトランク永井)の話だけを中心にまとめた脚本。
セリフや場面などはキーワード的に原作を利用しているけれども、かなりアニメオリジナルに再構成されています。


◆それでも、原作の「とりとめの無さ」という最大の味は残っているし、原作の美質である「生真面目で硬いセリフ群」と、「「漫画的に表現された鼻息」に象徴される俗っぽいユーモア」そして「経済的な成功へのものすごいシンプルな憧れ(無邪気な有名人信仰とか)」が非常に目立った回。面白かった。


◇いずれも、水木先生の作品の中では時代が下るにつれて段々薄れていくが、特に原作の貸本漫画版の全ての話に色濃く刻印されている基調であり、個人的にはとっても堪能しました。


◆また、内容的には、鬼太郎の「女の子」への素朴で異常な執着や、ねずみ男の語り口のずるがしこいユーモラスさにも注目かしら。
そして、トランプ重井(おもい)の「吸血木」にされたあげくの死と、ユーモラスな再生という、「全く意味が見えない展開」が最大の味わいどころ!


◇政治や経済状況への素朴な言及や生硬なセリフ群は、(恐らく水木先生の照れ隠しである)原作のセリフのノリを上手に再現していて、とってもチャーミング。味わい深すぎます。


◆ただ、(私は欠点に思わないのだけど)(アニメ版として再構成されているとはいえ)物語に配置されている諸要素間の結合力が非常に弱く、物語の展開が奇妙で唐突なのに不満を感じる方もいるんじゃないかな。


◇原作もまったくこの通りで、個人的には、これは、「長編物語」創作にまだ不慣れだった水木しげるの無意識が原初的な形でゴツゴツと露出しているのだとおもっています。
鬼太郎のキャラクター性の傍観者ぶり(文字通りなーんにも考えていない)や、水木先生がそのまま鬼太郎の口を借りてしゃべっているかのような感触が、とてもイイ。


◇貸本漫画版は、いわば、「水木しげるという世界」の「神話」なんじゃないでしょうか。(貸本版のエピソードの殆どが後年の「墓場の鬼太郎」、若しくは「ゲゲゲの鬼太郎」で再話されていますし。)


◇だから、この唐突さ、奇妙さ、シンプルな世俗性、初初しい生硬さこそに価値があり、味わいどころです。
むしろ、これを再現しないで「墓場鬼太郎」ではないとさえ、言ってしまいたいぐらい。


◆ところで、話は変わりますが、実は、貸本マンガ版は、コマの割り方にあまりメリハリがなく、しかもコマに時間が圧縮され過ぎていたり、不必要に思われるディテールが詳細にコマを割って展開されていたり、さらに物語としての展開が唐突すぎてとても読みにくい。緩急が自在すぎて、ペースを掴むのが難しい。


◇だから、「現代的ではない構造」を持ったこの「物語のテンポ」を、現代的なアニメーションの文法に落とし、しかし、とりとめのない連想のような物語の構造や、貸本漫画的な色彩感覚、作画のポイントをかなり忠実に再現しているというところに、このアニメーションシリーズの価値があると個人的には思っています。


◆ただ、(個人的のはものすごく楽しんでみているけれども)、とりとめのない連想のような物語の連なりにアニメーションオリジナルな「ひと味」を加えると、誰もが楽しめる劇的な変化を起こす素材群だという気も若干していて・・・・少々複雑な気分。


◆◆以下メモ◆◆
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・冒頭の駅ホームでのねずみ男の「意識が混濁したような」浮浪者ぶりが素晴らしい。


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・京都の町屋のような路地に、居室を確保する鬼太郎親子と水木さん。


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・この回の鬼太郎名セリフ集
(1)寝子さんに懸想する鬼太郎
「とうさん・・・ぼく、また猛烈に勉学がしたくなりました。この情熱は本物ですっ。(鼻息)」


(2)寝子さん目当てで学校に行くようになった鬼太郎
「おい、鬼太郎!学校はどうだった?」(目玉のオヤジ)
「ふんっ(鼻息)、刺激的でした!」(鬼太郎)


(3)おねだりをして卑屈な鬼太郎
「ただいま」(水木さん)
「・・・今日は美味しい夕食が、用意してありますよ。ヤモリの煮汁です。」(鬼太郎)
「あ、いやあ、・・結構。」(水木さん)
「そういわずに!いかした味ですぜえ?」(鬼太郎)
<物欲しげな様子の鬼太郎>
「うん、・・・・どうしたんだ?」(水木さん)
「実はクレヨンがほしいんです。」(鬼太郎)
「50円いるんだな。」(水木さん)
「ありがとう、うへへへへへ」(鬼太郎)
・この端正なお礼のあとの、卑屈な笑いが素晴らしい。野沢雅子ナイス。


(4)ねずみ男をさがす鬼太郎
<婆さんたちがねずみ男の居場所を知っていると聞いて>
「なんたる幸運!」
<婆さん達に袋だたきにされて>
「なんたる不幸・・・」


(5)ラストのシメの、鬼太郎の「何にも考えていないぶり」が素晴らしい。
「この吸血木があるかぎり、第2第3のトランプ重井が現れるかも知れません。・・・・(ほがらかに)火葬にしましょう!」


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・この回は、トランプ重井(おもい)の「吸血木」にされたあげくの死と、ユーモラスな再生という、「全く意味が見えない展開」が最大の味わいどころ!


「しかし、妙ですね?あなたほどの成功者がなぜこの安飲み屋に?」(水木さん)
「実は・・・」(トランプ重井)


「高額の治療費にギャラの全てを使い、ただ馬車馬のように働く毎日。なんという、悲しい運命だろう。」(トランプ重井)