■電脳コイル12ダイチ、発毛スs&c磯光雄d木村延景g秦綾子

◆素晴らしい。
◇日がな一日、日が暮れるまで無駄な捜索に時間を費やすという夏休みの魅惑の小学生ライフから始まって、男女容赦なく(ヤサコにすら)ヒゲを生やすという意表をついた登場人物いじり、そして、いつしか叙事詩的な文明の成熟と、それと不可分な戦争の歴史が語られる・・・・という、コミカルを基調にしつつ、行く先不明の意外な展開。重層的で巧みな構成で、これをよく無理なく30分で構成したなーと感嘆しました。


◇また、こんな(コミカルだけど)重い話をどうまとめるのかとハラハラしながら見ていたら、物語内叙事詩の種族の特性に似合った、シリアスではあるがコミカルな落としどころが用意してあって、心地よく爆笑しましたよ。


重い話を説教じみたシナリオでまとめるのではなく、重い話がコミカルに相対化され、しかし忘れられない何かを残すという高度な技で、絶妙なバランス感覚だと思いました。


◆あと、絵的なイメージの緩急が素晴らしかった。
◇「顔」表面を惑星に見立てての、都市文明の発展、核戦争、そして惑星間戦争。これらの主体は、抽象的なぼんやりしたものとして描かれます。
しかし、それら抽象的な何かが、現実基層のヤサコ達の日常と交錯する場面(主に戦争の部分)では、リアルなミサイルの光や、核爆発として描かれるのです。


◇これらが、ヤサコ達の「顔」の目の前で展開される時、(絵面がおかしくて異様なコミカルさを生んではいるのだけど)その火炎の生々しさがヤサコ達の日常を侵犯していく危険を感じるという切迫感。これが、この回の印象を深める要素になっているんじゃないかしら。


◆しかし、この、「箱庭的世界に住まう抽象的な何者か」を育成していき、彼らが文明を持ち、人類同様愚かな行為をする様をコミカルにまとめたプロットは、ドラえもんで読んだことがある気がして仕方ないのですが、ググッても見つかりません。(この回はこの回で素晴らしいのは言うまでもないのだけど、個人的に記憶を掘り起こしたくて。)
ワタシの記憶違いかなー


◆◆以下メモ◆◆
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・「人物表面の肌にすら万遍なくマッピングされた電脳空間のテクスチャ」という設定を最大限上手く使ったエピソード。・・・なんだけど、多くのエピソード同様、メガネをOFFにしておけば、とりあえずしのげた気がして仕方がない。
・メガネを外せないほどの魅力があるんでしょうが・・・しかし、それは、中毒とも言う気が・・・・


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・冒頭のヤサコのナレーション
「ヒゲ達の噂によると、紀元5550分、ヤサコ様が約束の地にお導きくださるそうです・・・」


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・ダイチの父親が、家の中、下半身にモザイクをつけてうろついて、名セリフを・・・
「ばかもん。これが家庭ってもんだ。全裸で過ごせない家庭なんて家庭じゃねえ。家庭とは全裸、全裸とは家庭だ。」


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・ヒゲが生えて担ぎ込まれたダイチのヒゲを拡大して観察するメガばあ。
「へへへ・・若い肌はええの。」


「皮膚の表面から先端までが、古い空間じゃな。」(メガばあ)
「やっぱりこのヒゲはイリーガルか。」(ハラケン)
「こいつも自分の回りを古い空間に置き換えているのね。」(フミエ)
「じゃあ・・・いずれ顔が霧に覆われて・・・」(ヤサコ)


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・メガばあの飽くなき探求心に萌えた。
「言語を持ってオルからもしやとおもったが・・・」
「小奴らの声を聞き取ることに成功した!」
「しかも、古い翻訳サーバの言語に近いものでな・・・翻訳機ができてしもうた!」


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・ヤサコのヒゲでは順調に文明が発達し、キョウコのヒゲと通信が成功。空前の宇宙開発ブーム。
・左頬からロケットが発射され、その軌道を期待に満ちた眼差しで一同見つめる様。しかも、みんなひげ面だという絵づらが、もー、ばかばかしくておかしくておかしくて最高。


・しかも、直後、右頬へ向けて着弾し、核爆発・・・・という続く絵づらも、意外感が格別で、しかも恐ろしい。だけど、コミカルに冗談で押し通す語り口が、絶妙のバランス。


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・戦争はエスカレートし、やがて星間戦争へ・・・
「ヤサコは、神なのに言うことを聞かないのか?」(ハラケン)
「それが、最近はダメなの。どこかの哲学者が、神は死んだとか言い出して・・・」(ヤサコ)


「戦争は空しいわ・・・」(フミエ)
「どこで・・・どこで間違ってしまったの?・・・私の可愛いヒゲ達・・・」(ヤサコ)


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・移住先にて。爆笑ポイント。
「紀元5760分。ヤサコ様のお導きにより、ヒゲ族は無事、約束の地へ移住を果たした。」


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「でも、それから数日後の事です。ひさしぶりにヒゲ達の様子を見に行った私達は置き手紙を見つけました。
手紙には、こう記されていました。
ここも私達の住むべき場所ではありませんでした。私達は早くオトナの文明になりたかった。でも、それには私達は幼なすぎたのです。私達は本当の約束の土地を探す旅に出ることにしました。
その約束の土地は、もしかしたら私達の生まれ故郷ではないかと思うのです。・・そこはきっと争いのない平和な土地なのではないか。そんな気がしてならないのです・・・」