■天保異聞 妖奇士25幕間〜ヒトハアヤシs會川昇c福田道生d佐藤育郎g逢坂浩司織田広之山本尚志妖夷g五十嵐嘉一

最終回。
◇最後は、「人は、物語なしに/生きてはいけない。」で締める。非常に魅惑の命題なんだけれども、今まで語られてきた物語、主要登場人物の心情、適うことなら激情、そういったところとリンクしていない、いわば製作者の「言い放ち」みたいになっちゃっていて、非常に残念。


◇おそらく、当初構想の物語の終着点は、やはりここで、異界は、「物語」のメタファーだったんじゃないかな。現世がイヤで、ここではないどこかを求める心が存在しないものを創造する。
異界は、泥水に浸かり這いつくばって、苦海に生きるヒトビトがその鬱屈を爆発させるところに生じる。人生が苦しみの連続と定義しているこの作品のベース認識ならば、異界は無くなってハイ解決!とはならない。


だから、例えば、アトルの苦悩を丹念に描き、花が咲く、子供が戯れるのを眺める、道行くヒトビトがそれぞれの感情の生活を一生懸命生きていると感じられてそれが愛おしいと思える・・・・・そんな苦しみの中にささやかな日々の楽しみを見いだすような境地に達する様を丁寧に描出していく予定だったんじゃないでしょうか。


そして、そんな境地で淡々と生きて行くにしても、それでも苦渋に満ちた現世には希望が必要だ。そのための、救済装置として、異界への憧れを含む<物語>を提示する・・・・・というせつない展開を見せてくれたんじゃないかと予想(妄想?)すると、残念すぎて浮かばれません。


◇特に、物語のキーポイントのアトルの心情が、物語の骨組みの提示だけで終わってしまったのが悲しい。この回では取って付けたように、アトルはユキアツの説得で現世に戻るのだけど、アトルが現世を嫌悪し異界を希求する心情に至るエピソードも不足だったが、それに輪をかけて、(エピソード不足故の)説得力不足ですね。
エピソードの積み重ねが感動を呼ぶタイプの結末のはずで、やっぱり残念。


◆さて、物語は、「西のもの」が亡びたところで、一端の決着となりました。しかも、激駆け足。
「西のもの」の<某高貴な方の別れた血統>という設定も記号以上の意味を持てませんでした。
また、異界の成り立ちについての展開も放置され、文明が開かれていくに連れて「いつか消滅する神の残滓」という(期待される)魅惑のモチーフの決着もなく、奇士は今後も淡々と妖夷を退治していくみたいです。(第13話冒頭に描かれた、河鍋くんが老境に達した時点では妖士や妖夷は存在しなくなっているみたいなので、きっとこの「神が死ぬ」展開は予定されていたに違いない・・・・と、やはり妄想。)


そして、(ケツァルコアトルを出した時点で期待された)<神>の普遍性を、どう合理的に解釈して世界設定を紡いでいくかという点も放置されてしまいました。


◇あと、水野忠邦を取り巻く政争も中途半端かな。特に鳥居耀蔵については、このような重要な役割を振っているからには、このあとの展開も見たかったな。


◆最後に、まとめると、やっぱりこのシリーズの最大のポイントは、冒頭1クールの39歳ユキアツの荒涼とした心情の描写に尽きるんじゃないでしょうか。個人的には、39歳の遅れすぎのジタバタが無茶苦茶ツボにはまったのですが、これが逆に土曜夕方18時台の視聴者には、心に響かなかったのかな。


あと、自分の子供の頃を振り返ると、確かに「時代劇」がテレビの画面に映った瞬間にチャンネルを変えていた記憶がある。時代が進んだ現代じゃなおさらなのかもしれないな。
そういった意味で、魅力のある妖怪を前面に押し立てて、百鬼夜行などの異常な描写で視聴者をキャッチするという戦略も不足ぎみだったのではないかなーと思った。


◇視聴者と年齢の遙かに違う主人公、リアルタッチの江戸時代、白川静の漢字研究。ワタシ個人としては狙い打ちされたかのように面白かったのだけれども、肝心のソニーさんの商売を支えるヒトビトをとっ捕まえる仕組みがちょっと弱かったんでしょうね。



◆◆以下メモ◆◆
・異界でのアトルとユキアツの対話。
「ユキアツは、あそこで私の生きる理由を与えてくれると言った。だけど、あそこには苦しいことしかない。人であることが苦しいことなら、私はもう、耐えられない。」(アトル)
「アトル・・・オレはお前を助けてやるつもりだった。・・オレが何かお前に与えてやれると、本気で考えていた。・・・・だけど。だけどな。無いんだよ、オレには。お前にやれるものなんて、何も持ってなかったんだ。」(ユキアツ)
「・・いいんだ、ユキアツ。ここにいよう、何もかも忘れて。」(アトル)
「アトル・・・オレにはお前が必要だ。・・お前を見るたびに思い出すコトが出来る。・・本当は、オレもお前のように異界に行きたいのだと。・・弱くて、すぐ逃げ出しそうになってしまう人間なのだと。・・・・それでも、だからお前が側にいてくれれば、オレは・・何というか少しだけマシになれる。強くなれる。・・・オレがお前を救うんじゃない。アトル・・・お前がオレを救ってくれていたんだ。」(ユキアツ)
「そうだな・・・(現世に戻るには)悪くない理由だ・・・。」(アトル)