■天保異聞 妖奇士18漂泊者の楽園sc須永司d佐藤育郎g亀井治管野宏紀g協力川元利浩

◇・・・・物語的に、アビの姉さん(劇中のセリフからすると、血のつながりはないような気がした・・・)の事が解決されたと語られていて、これでアビ編は終了のようだけど、(山崎屋の小物な悪行に決着はついてはいるけど)(重要なことが)まったく何も解決してないやんか!と思わず叫びたくなりました。


ニナイが、「山の神にさらわれた」のではなく、「山の暮らしに嫌気がさし、異界に留まる為に自ら望んで<神=妖夷>の嫁となった」事が語られて、一同、自分が望んだならば仕方がないか、解決、解決!・・・・という投げやりな流れにみえちゃったんだけど、私の気のせいでしょーか。


◇一番気になるのが、ニナイが、神=妖夷と交わって生んだという妖夷<涙孥>の扱い。
彼?は、最後、山の民に連れられていっちゃって、一同それを見送るのだけど、彼?の意識だとか、存在する意義、或いは神と交わる禁忌について、物語的に一切描出しないのは、どーにも座りがわるい。
しかも、今後もサンの民の「食用妖夷」として生かされていくみたいな結末だし、物語的にこのまま放置していいものでしょーか!


これほど、この物語世界の秘密に近い、禁じられた魅惑の境界的な存在を放置するのは理解できないな。
アビがぽつりと漏らす「ニナイが地上かけた呪いだ」という解釈だけじゃ、どうにも収まりがつかん。


あるいは、この意識のないウミウシのような存在としての描写が、後々、神の末裔としての<妖夷>の壮大な構想の伏線になっているんでしょうか。


◇そもそも、ニナイが異界に魂を奪われていて、妖夷とその本質において変わるモノではなくなってしまったとは語られているけれども、それであっさり「かってのニナイはもう存在しない」と諦めるのではなく、それでもあきらめがつかず、縋り付いても元に戻そうと努力するのが物語の中の登場人物なんじゃないかなあ。


劇中、異界と現世との、圧倒的な断絶を見せられたりすれば、少しは見ている私も納得しようと努力も出来るが、なに、ニナイは普通に話していて、しかも言っていることが、家出の中学生みたいな物言いなので、尚更、元に戻りようがあるように思えてしまって、だから、アビが「姉さんはもういない」と心底思って諦められる(自分の中の)納得性が確保できないのですよう。
不可逆性を上手く説明できていれば良かったんだけど。


今までこのシリーズ的にも、異界についての描写ってビジュアルだけだったので、初めて異界について一歩踏み込んで作ったエピソードであるだけに、どうにも腑に落ちにくい部分に拍車がかかっているのかな。


◇但し、私にしろ、この回が、この辺りに力点を置いたエピソードなのではなく、「漂泊する自由民の自由さ」が神話であると強調し、彼等にもどうしようもない不自由さがあり(まあ、「サンの民の暮らしは地獄さ」とアビに言わせているだけですが・・・)、やはり「人間は、身近なつまらない日常を懸命にコツコツ生きていくものなのさ」という、このシリーズの基調を描こうとしているのだとはわかるので、結構ないちゃもんなカンジはする。
だけど、神との異種婚姻や異界への没入を描くんならば、腰を据えてやらないと、もったいない気がして仕方がないのです。


◆◆以下メモ◆◆
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・食用妖夷について、鳥居耀蔵配下の松江ソテさんが述べる。
「その箱・・・山崎屋が用心棒どもにくわせていたのは、そいつだね。」(松江ソテ)
「何か知っているのか?」(アビ)
「出来損ないさ。・・・そいつは妖夷とヒトの間に出来た子だよ。」(松江ソテ)
「なぜそんなことを」(宰蔵)
「私も生んだことがあるからねえ。」(松江ソテ)
「まさか・・・番所が作っているあの、カッパじみた奴ら・・・」(ユキアツ)
「・・・・・・・。おゆき!そいつは捨てちまった方がいいよ。さもないと、今度はあんた等が虜になる。」(松江ソテ)


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・元農民でサンの民に憧れてサンの民になった「米吉」が、食用妖夷について語る。
「こいつは黄泉の国のものだ。尊い神が喫するのさ。」(米吉)
「妖夷とヒトの間に生まれるモノと聞いたが?」(アビ)
「ああ、これはニナイ様とオウグの御子だ。」(米吉)


「ニナイ様は、あのでっけい妖夷の嫁になって、出来た子供をこの世にくだされた。天津神と同じだ。・・・そしてオラは山崎屋の旦那に、ニナイ様の御子を託した。」(米吉)


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<涙孥>。孥の意味〜「子供だ。奴隷にされた子供。」(小笠原)
<於偶>。「偶とはひとがた。ヒトに似せて作った人形のことだ。」(小笠原)
「誰かがヒトに似せて作ったのが、あの妖夷ということだ。」(宰蔵)
「ニナイがさらわれたのではなく、妖夷をつくったと?」(アビ)


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・妖夷を取り戻しに来た山の民を刀にかけ、自問自答する小笠原さん。
「何をやっているのだ。・・私はこのような境涯の者達を、救おうとしていたのではないのか?」
・・・ええっ?そうなの?ううう、知りませんでしたよう。


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・異界の住人になったニナイが、異界の真っ赤な景色の中で、アビに語りかける。
「攻めてくるものがあれば、逃げるだけ。・・そして別の山で暮らす。それがサンの民。」
「・・・私はあのとき、サンの民であることがいやになった。逃げ続けることが。・・・山から山へ彷徨い、唯生きるだけで、私達に何が出来る。」
「・・・だったらいっそ私は。・・・私の心は叫んでいた。私を連れて行ってくれ。全てを壊してしまえと。」
「アビ・・・お前もここの住人になろう。サンの民、里のモノ。・・そんなモノはここでは意味がない。山で一番強かったお前と、私は一緒になりたかった。」


「ニナイ・・・あの妖夷はお前の子なのか?」(アビ)
「異界に住むには、妖夷と結ばれなければならなかった。」(ニナイ)
「何故それを、我らの世にもどした。」(アビ)
「妖夷は異界にとどまれないからだ。」(ニナイ)
「・・そのために多くのヒトビトが惑わされた。」(アビ)
「弱いから惑わされるのだ。私のように世界と戦えば・・・」(ニナイ)


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・そこにユキアツが乱入。
「<異>・・・異界の<異>。この文字は、両手を高く上げた鬼を意味している。(・・・)この世に懸命に生きる人間を惑わす・・・それが鬼ってんだあ」
「こいつはもう鬼だ。人間じゃねえ。」


「惑い苦しむのは人間の愚かさ。弱さゆえ。・・・異界にその苦しみは無い。」(ニナイ)
「あんたにとっちゃ、異界が極楽ってことか。」(ユキアツ)


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・エピローグ。アビについて
「帰るところは・・・どこにもない。」(アトル)
「里のモノは、俺たちに甘美な夢を見る。とこしえに漂泊するモノという物語を勝手に紡いでいる。だけど、お前は本当にさすらい、彷徨い続けるんだね。」(カラクリのヒト)