■天保異聞 妖奇士14胡蝶舞s會川昇c宮尾佳和d土屋日g枡井一平

◇事件発端編で、今回は吉原の描写が主題のようだ。
江戸元閥さんやアジが、酔いつぶれてだらしなくダラダラと吉原で過ごす様に幻滅。また、江戸さんに呼ばれて、いそいそと吉原に出向くユキアツも、元遊び人のロクデナシの血がさわいでいるのでしょーか。


◇劇中、河鍋くんに、吉原に囲われている女の人を、いい目を見られずに野垂れ死んだりする農民の娘と比べて不幸とは思わないと言わせてはいるけれども、唯でさえ共感しにくい吉原という舞台の上に、アトルと河鍋くんがいいカンジになりそうなのを、「おい子供!」といって、恫喝するユキアツの動機の微妙さもあって、土曜夕方のアニメーションとしては、非常にカオスな雰囲気が醸し出されている気がするのは、私の気のせいでしょーか。
しかし、これはこれで、いいカンジだ。
特に、黄昏に染まる吉原や、夜の店先のぼーっとした照明などの異界風な演出が、ヨカッタ。文字通り、当時の一般庶民には異界そのものといっていい、不思議な価値観とルールが支配する別世界であったのだ。


願わくば、普通の時代もののフォーマットに落とさずに、吉原の「異界」としてのエキセントリックな物語とビジュアルを追求して欲しいのだけど・・・・さっそく、幼なじみの女が女郎になり、それに執心する火付け盗賊改めの同心がでてきたりして、一抹の不安が・・・・


◇ところで、ユキアツは、アトルには、保護者≒親としての感情を抱いているのかな。それとも、まことにヤバイと思うが、情愛の対象?(まあ、当時は初婚年齢が10代前半なんて普通だったので、時代物としてはあり得る展開だけど、現代では、つかまってしまいますしね。)
このあたりが39歳独身のヘタレ男をフィーチャーしたこのシリーズの独特なところで、通常のアニメーションだったら、主人公達の年齢もそれなりで、あまり心配する必要がないのですが。


しかし、OPの断章では、傷つきへたり込んで涙を浮かべているユキアツに、まっすぐ手を差し伸べている、救いの神のようなアトルが描かれているので、おそらく、挫折した30代後半ヘタレ男が、まっすぐで希望に燃える10代の子供に、生きる意味を再定義してもらうという展開になるのではないかしら。
いやでも、「30代後半男の再生」というテーマは、(ドラマや映画ではともかく)アニメーションで通用するのか。私は、とっても、とっても見たいのだけどさ。


◆◆以下メモ◆◆
===========================
・「ツメや髪、しまいには指を客におくるのさ。」(遊女)
「あちきは、これほどねっさ(?)に一途でありんすえ、てね。」(遊女)
「すりゃ、客が本気にして駆けつけてくれるっていう寸法さね。」(遊女)


「騙すんですか・・・」(アトル)
「いや・・・夢を見させてやるんだよ。」(河鍋くん)


===========================
・河鍋くんは、火消し同心、甲斐キュウエモンの嫡男だそうです。本名は、甲斐周三郎。


===========================
・火付け盗賊改めは、凶悪犯を専門に取り締まり、「詮議無用で処断する」ことが認められているそうです。また、「たいがい、吉原に数名出張っている」そうです。


===========================
・劇中、幼少の河鍋くんが、緑毛亀と間違えて生首を拾って家に持って帰って写生したというエピソードが出てきますが、緑毛亀はともかく、生首の写生の話は昔、何かで読んだことがあるな。


===========================
・この物語の通奏低音である、<ここではないどこかへ>
「あそこに行きたいのか?」(河鍋くん)
「どうしてそう思うんだ。」(アトル)
「さあなあ、なんだかそんな目をしているからさ。・・・ここじゃねえ、どこか。・・まったく別のどこかへいっちまいたいって。」(河鍋くん)


===========================
・上記シーンに続く、河鍋くんの吉原擁護。
「・・・・いくなよ。あそこが地獄だか極楽だが知らないが、ここにも楽しいモノは幾らでもあるんだぜ。」(河鍋くん)
「・・そうは思えない。ここにいる女の人は金で買われてきて、男の相手をさせられる。・・この街は堀に囲まれ、勝手に出ることもできない。」(アトル)
「だが、女達はどんな男でも相手にしなきゃいけないってわけじゃねえ。花魁にでもなれば、相手をする男は自分で選ぶ事だって出来る。外じゃ手に取ることもできねえような着物やかんざしを身につけ、高え酒や料理を、客持ちでたらふく食える。・・・それにな。年季明けは27だ。どんな女でも28になれば大手を振ってここから出て行けるんだよ。・・・貧しい中で行きだおれる百姓娘や、一生下働きで終わる娘。そんな奴らに比べたら、ここは極楽だ。・・お前だって、ここなら夢のような暮らしが出来る。」(河鍋くん)


・遊女の寿命論で、河鍋くんの発言にツッコミ入れようとおもったのだけど、WEBをゴソゴソ見ていたら、<27歳で年季があけていなくなる「吉原の遊女」の寿命>を想定したって、そりゃ27歳より下になるわなとか、もっともな発言があったりして、私には手に負いかねるので、やめときます。
・比較対象である「一般庶民の寿命」にしても、江戸前期で、30代前半とか、中期で40代強とか、時期によってかなりぶれがあるみたいなので、専門じゃないわたしにはわかんないや。


・だけど、一つ言えるのが、27歳で、吉原を放り出される女たちの行く末。いい旦那を見つけて幸せに暮らしていくヒトもいましょうが、身よりもなく、身をひさぐことでしか糊口をしのぐ術をしらない彼女たちの多くの末路はどうなったか。(再教育施設があるわけでも無し)結局、稼ぐ術は身を売るしかないから、吉原よりも格の落ちる岡場所で、死ぬまで身をうったるするしかなかったんじゃなかろーか。