■天保異聞 妖奇士10弥生花匂女神楽(やよいはなにおう、むすめのかぐら)s會川昇c石平信司d池畠博史g野口寛明堀川耕一

◇この回での宰蔵は、アトル編のエピソードと同じ立場かな。少年少女の潔癖性として、「汚いオトナの世界」を厭い嫌うスタンスだったのが、ユキアツに教え諭されて、ものごとを曖昧にオブラートに包んで見過ごして、生きていく「オトナの生き方」を悟る・・・・
「だれだって、何枚もの仮面を被っている。いい事をしたその夜に、悪魔のような事をする。・・・いつかそれを認めるしかねえんだ。・・・宰蔵、おまえが選ばなくちゃいけないのは、そんな・・・オトナの顔なんだよ。」


特に「汚いオトナの世界」の象徴として、宰蔵の父親の男色家の側面が登場。そんな生々しい父親を厭うが、しかし、自分に大好きな芝居を教え込んでくれた父親を慕うのも事実。そして、慕う心も強いのだけど、父親から与えられた名前は、「罪人の象徴」としての文字を含んでいる。
父親を嫌悪するが、父親を愛し、しかも父親に見捨てられることを恐れている宰蔵の心のアンビバレンツなモチーフが、いやー、素晴らしく私好みのシチュエーションですよ!


・・・なんだけど、このモチーフが全面展開されると思いきや、この心理的なモチーフに、宰蔵の芝居への愛憎が重ねて描かれる。むしろ脚本的には、父親を巡るコンプレックスは覆い隠され、芝居への両義的な想いが全面に押し出されていたかな。


しかし、宰蔵編は、「人間のいろんな仮面を被った生き方、処世を受け入れよ」というユキアツの説教をカナリあっさり受け入れて、Bパート冒頭で終了。
そして、父親がつけてくれた「宰」の字が、罪人を表すのではなく、「人を導く人間になってくれ」という父親の思いがこめられていたのだろうという、調和した落着点。
うー、個人的には、あっさりしすぎて、すごく残念。


◇さて、Bパートからは新展開。お江戸八百八町を妖夷から守る妖士の活躍を描いていたこれまでと少しズラしてきて、日光街道東照宮まで行く、妖怪道中股旅ものになりそうで非常に期待。


◆◆以下メモ◆◆
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・冒頭いきなり、舞台で宰蔵の父親に後から抱きしめられている半裸の新三郎さんが描写されて爆笑。だって、手に桜の枝をもってんだもの。こみ上げてきてしまった。
・コレを目撃すればトラウマにもなろうさ。父親の別の仮面と本音。
「キレイだよ。新三郎・・・お前はこのままでいておくれ。宰蔵はやっぱり、・・女になっちまった・・・・」


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・仮面の妖夷に乗っ取られた宰蔵とユキアツの対話。
「わたしは、全てを打ち壊す。」
「全てとは・・・何だ?」
「・・・幻だ。異界に匹敵する邪悪だ。異界と同じだ・・・芝居は、人を・・惑わせる。舞台の上に嘘を積み上げて心を奪う。そんなものは全て無くなればいい」


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・クスリ屋で、「竜骨」を買い求める小笠原さん。
・それは、古代の甲骨文字が描かれた亀の甲羅で、前回ひっそりつづらに収められたそれを眺めている様が描写されたように、小笠原さんはしばしば買い求めて、甲骨文字を研究しているみたいです。
・その最新の研究成果?として、今回、宰蔵の「宰」の文字の起源が、語られるって脚本の流れみたい。前回、妖しい世界の秘密のカギかと思った亀甲は、この回の小笠原さんの研究成果発表のための伏線だったみたい。
・この後、この小笠原さんが集めている亀甲に描かれた甲骨文字が、世界の真理を表現していた・・・みたいなステキな展開がまっているのかな。


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・正気に戻った宰蔵が、ユキアツに呟く。
「私はお前にいったな。いい歳をしてこの世のモノではないモノに憧れるのか・・と。あれは、あたしのことだ。」
「舞台に憧れた・・・ということか?」
「私は幻に、別のモノに憧れる自分をおぞましいと思った。異界に憧れるお前やヒトビトを嫌い、異界など断ち切りたいと思った。・・・あたしは決めたのだ異界を倒す側に立つと。・・・なのに、まだ私は捨てられないで居る。」
「あの、キツネが言ったことか?」
「そうだ。私が妖士になったのは、踊りたかったからだ。禁じられた舞台に立つように、堂々と舞いたかった。」


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・ユキアツの漢神の力で宰蔵から取り出された刀をみて、宰蔵の「宰」の字の起源について小笠原さんが語る。
「それは、家老など王を補佐する人間がもつ、祭司刀だ。」
「私が俗説に惑わされていた。お前の「宰」という文字は、入れ墨の針を示すものではない。まつりごとにおいて、そのきょく刀で生け贄を切り分ける、王を支える腹心の意味だ。」
「お前に父は、お前が誰かを支える立派な存在になることを期待していたのだ。たとえ舞台で主役になれずとも。」


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・宰蔵の断罪を求めていた、鳥居耀蔵の配下の本城さんと女が、宰蔵を見逃したことについて小笠原に文句を言う。
「どうやら貴様は鳥井様の恩を忘れたらしい・・・」
蛮社の獄を免れたことは感謝しておる。・・・私には私の使命がある・・・・」


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・Bパート、新展開の冒頭。
天保14年3月21日日光山御詣によて。」「関東在住の悪党共、召し捕らえぬべしと。」「そのほとりの大名29名に命ぜられる。」
・当時の将軍徳川家慶が日光へご参詣。道中の浮民やならずものを前もって捕縛する命令がくだされたと。・物語では、事前に、老中土井トシツラが前もって予定の道筋をたどることが語られて、それに同行する小笠原放三郎。


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・内田弥太郎先生登場。「宇宙の動きを算学で知る」という学問をしていて、小笠原さんは、(この回では理由を語られていませんが)破門されているようです。その割には、すごく普通に師弟の会話をしてます・・・
・ところでググってみると、どうやら実在の人物らしいのですが、情報がちょっと少ないかも。


「共に、この内田の元で算学を学んだ同輩。シロヤマは幕臣の養子となり、加納、お前は砲術の道に・・・何を争う」(内田先生)
「質したいことがあります」(加納)
「加納・・・お前は長崎の高島秋帆先生のもとに行っていたはずだが・・・」(小笠原)
「先生は、謀反の疑いで昨年捕縛された。知っているだろう・・先生を公儀にうったのは、本城モヘイジだ。」(加納)
「本城?」(小笠原)
「先日、貴様と親しく話していた男だ。」(加納)
「本城辰輔殿は、鳥居甲斐の守に使えるれっきとした・・・」(小笠原)
「高島先生を捕縛したかったのは、西洋嫌いの鳥居。ヤツが本城に命じて高島先生を罠にかけたのだ。・・・そして長崎奉行所の取り方を指揮していたのは、小笠原ミツグ・・・貴様の養いおや殿。・・・貴様も本城とおなじ、我らを裏切り、大恩ある高島先生を売った。」(加納)


・内田先生は、達観している。本気で小笠原さんを焚きつけているわけではなく、現実への諦念が彼の心を支配しているようです。
「加納は本城という男を斬るといっている。高島先生はもはやなくなられたと同じ。そのカタキをとるのだと。キミも力をかしてやってはどうだい?」
「・・・やれやれ、君らに教えた算学は、無力だねぇ・・・・」


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・一人江戸を出立しようとする小笠原に、同行するユキアツ。
「本城を守って、加納という侍に斬られるつもりか」