■天保異聞 妖奇士08狐芝居s會川昇c宮尾佳和d金子伸吾g工藤裕加小平佳幸長谷部敦志g協力高橋久美子

宰蔵ちゃんの、自分の名前とそれを名付けた父親への心的複合の話のその1。
実家の家業である芝居小屋と踊りへの愛と、それへの反発が、父親への想いと二重写しになって描写されます。
宰蔵のサイの字は、トゲを含み、罪人を表すと劇中語られているけれど、きっとその表象が反転して、やっぱりお父さんはサイゾウのことをちゃんとかんがえていたんだなぁ、という、ラストになるのかしら。


さて、江戸時代モノとしては、都市住人の憧れの的だった「芝居小屋」をクローズアップさせている回だけど、その華やぎと賑わいや憧れが、セリフでしか説明されていないのが残念。
当時の芝居が我々にとって面白いかは微妙だけど、ゲストの登場人物を出して、芝居見物の高揚感を演出するとか、あるいは大胆に現代風にアレンジして舞台をみせたりとかして欲しかったなあ。(個人的嗜好かな・・・ニーズはあんまり無いかも。ていうか、難易度高そうだ・・・)
特にこの回は、サイゾウの踊りに対する想いが大きな心理的なファクターになっているだけに、なおさら、外面をなぞるようにしか語られない芝居に、空白感を感じてしまった・・・


あと、狐の妖夷が正体を現してからの、芝居小屋の舞台上での宰蔵の幻惑が音楽相まって盛り上がりどころ・・・・・なんだけど、画面的に桟敷の客や妖夷たちがまったく動いてくれないので、幻以前にリアリティが表現されてなくて、少々盛り上がりに欠けてしまったかも。
桟敷席とか、花道とかの、「芝居小屋空間」は、(私の手元にある資料的には)割と史的復元に忠実に作られているだけに、その空間に命がふきこまれなかったのが返す返すも残念。


◆◆以下メモ◆◆
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・アバン。火事の焼け跡での、職人達の会話
「ははあ、いいざまだあ。・・見ろよ、一昨年までココが芝居町だあ。それが火事出して、浅草たんぼの方においやられちまった。」
「へえ、ここが・・・でも、親方一度も連れてきちゃくれませんでしたね。」
「ばかあ・・・ちゃんと歌舞伎をみるには、安くても一両二分だぞお。役者どもなんざ年に千両給金とるって・・・そんなとこにこれるかあ。」
「でも、浮民同然の役者家業もたのしそうだぁ」


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南町奉行鳥居耀三に皮肉を言われているヒトが誰だかわからなかったのですが、EDをみて判明。水野忠邦の弟である跡部良弼(よしすけ)みたいです。また、EDに名前があるので、一緒にいるのは老中阿部正弘でしょうか。
「南町が手を焼いた妖夷を蛮社改所が無事退治奉ったこと、既に御老中水野様の耳に届いておる。」(跡部良弼
「それは、目出度きこと。御老中も実の弟君が、大阪以来評判を落とされていたこと、いたく気にやまれていたご様子ですから・・・な」(南町奉行鳥居耀三)


Wikipediaによれば、跡部良弼は、実兄の老中水野忠邦の威光を背景に、傲慢と無能を尽くして、大塩平八郎の乱を誘発したりしたみたいです。
・今、確認してみたら、第一話で出てきた、小笠原さんと会話している蛮社改所の黒幕らしきヒトビトは、跡部良弼阿部正弘でした・・・・・今更ですね。


「ヤツめ、兄上が蛮社改所をお認めになられ・・・焦っておる。」(跡部良弼
「鳥居は拙者や貴殿のような家柄卑しくないモノを、常々追い落とそうとしていた。・・・だが、そうはさせぬ。」(跡部良弼


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・芝居町の跡地で語る、宰蔵、アビ、ユキアツ。
「ここにあった中村座市村座、それに木挽町森田座だけが、お上に認められていた。」(アビ)
「実際には、芝居を見られる小屋は無数にあった。それも今回の御改革ですべて取りつぶされたがな。」(サイゾウ)


「芝居などまやかしだ。何の役にも立たぬ。人を惑わすだけの・・・毒」(サイゾウ)


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・人を面に変える妖夷。お面を、アビはお湯で煮るし、ユキアツは囓ろうとするし、ちゃんと人間に戻れるのか、行ったきりなのかしら。


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・宰蔵、昔なじみの元永楽座の道具方の五郎太にであって、別れてからの身の上を話す。
「女は舞台に上がってはいけない。だから父も13になったとき、私に禁じた・・・それ以来、舞台には上がってない。」


「私の名はだれが付けたか。母か、それとも・・・」
「お父上、伝右衛門さまですよ。・・他にだれがつけますか。」


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・馬のユキワに取り込まれた雲七が、宰蔵と語る。どうでもいいが、ユキアツが雲七と呼ばず、ユキワと呼ぶのに違和感を感じた。
「永楽座といえば、吹屋町に出ていた有名な小屋だねえ。」(雲七)
「そのうちは・・今は?」(アトル)
「おととしの10月、中村座が火事をだして、その罰で三座は、浅草に移転。他の芝居小屋は、禁止されてしまった。」(宰蔵)
「そいつは残念」(雲七)
「歌舞伎だの芝居だの、夢うつつに憧れても、人は幸せになることなどできない。・・・妖夷と同じだ。人を惑わす化け物だ。・・・罪だ。」(宰蔵)


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・宰蔵の名前の文字の起源を語る小笠原さん
「これらの文字には針が含まれている。(・・・)古代、大陸では、もし誓約を破れば、入れ墨を入れられても構わないとして、盟約の決意を示した。・・針は、その入れ墨の道具だ。・・そのため、入れ墨の痛みを示す「辛い」、神に盟約する言葉である「言う」、そして「罪」などにこの針が含まれる。お前の「竜」という字にも針はある。竜は針に似た角をもつからな。(・・・)宰蔵の宰の字にも同じ意味が含まれている。・・以前サイゾウが名前の由来をたずねた、私は今の話をし、サイという字は、針を己に刺して自らを裁く・・・つまり罪人を示していると話した。・・・あやつは、漢神をきらっているのではない。自分を嫌っているのだ。」


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「わたしは罪人だ(・・・)いや、私の名は最初から罪の意味を持っているそうだ。父がそれをつけた。父は女である私に罪と名付けた。わたしは生まれた時から罪人だったのだ。・・・なのにわたしは、きらびやかな舞台に立つことに憧れた。(・・・)全ては幻だ。手にはいることはない。だから、私は、・・私は妖士に。」


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・幻の舞台で、狐の妖夷との対話。
「きらきらと安っぽい。どれもこれも張り子だ。・・・舞台の上にはひとつも本物を置いてはいけないというのが、お上のお達し・・・木も、壁も、瓦も、見せかけの作り物。」
「・・・そして、役者も」