■天保異聞 妖奇士07竜は雲にs會川昇c福田道生d宮原秀二g逢坂浩司織田広之山本尚志

すごい。
「罪を犯したことなんて気にするな、しかし、そのことを抱えつつ、泥に這いつくばっても、罪の意識に苛まれても日常を生きていけ」
「人間には特別な立場なんてない。日常がつまらなくても、苦しくても、それを生きていくのが人間だ」
・・・とゆー、夢も希望もない、「精神鈍磨の勧め」、「オトナの処世術」を、十代のいたいけな女の子に説くユキアツ・・・・・
ユキアツは、自ら15年前の殺人の記憶を、いかなる社会的な責任を取ることなく、(時々罪の意識が浮上してくるけど)日常生活の中に埋めて、その悟りを体現しております・・・・


◆この主人公の精神的態度は、リアリズムすぎて、劇的な葛藤もドラマも生まないので、土曜日午後6時の視聴対象を考えれば、物語的自殺なんじゃないかなあ・・・と若干おもったけど(なんか毎回思っている気も・・・)、普通アニメではお目にかかれないようなリアルな主張で、(ワタシ的には)超好印象。
「ユキアツ39歳のリアル」過ぎるような気もするけど、そうなんだよね。
大方の人間は、特別な立場や視点などもてず、日常はつまらなくて、小さな罪を絶えず犯し、後悔しつつもしかしそれも日常に埋もれさせて、淡々と生きる為に生きていくのさ・・・・。


◇そう言う訳で、このアニメは、汚いマネをしても責任をとらず、罪の意識も日常に埋没させていくオトナの諦めが基調トーンなんだろーか。かくて、ユキアツの雲七殺しも日常と言う名の鈍感に埋没していく。
自分の分身であろうと神であろうと、ケツァルコアトルが暴れた責任を取ろうとしたアトルは常識的だとおもうんだけどな。ユキアツ39歳を体現しすぎです。


そして、ユキアツは、自身の精神的態度の象徴として、再度の雲七殺しを実行する。
「強靱」な「オトナの魂」を持っているユキアツは、かって雲七を刺殺しても15年間ものんきに日常を営んできたのと同様、ケツァルコアトルを倒すという目的の前に、もはや雲七を殺しても平気だ。
人間は罪を犯して、それにさいなまれつつ、日常に埋没して生きていくものだから。


◇しかし、ユキアツがそう言った精神的態度で、自分の中で、雲七殺しを整理するのはいいのだけど、雲七殺しの「倫理的な罪」「社会的な罪」はどこにいっちゃうんだろう・・・ってのが(個人的には)気になりすぎ。


アトルに「逃げてなんていないよ。この人は忘れなかった。自分のしたことをずっと。・・自分の罪を見つめていた。それって、つらいことじゃないのか。」と言わせて、
だからこの人は十分罪をあがなってきたと、擁護されているけど、ユキアツ自身は、「空想の友人雲七」と過ごした15年間を辛いともおもわず、むしろ罪の意識から逃れる意識の働きだっただけに、指弾されこそすれ、誉められたモノじゃないような気がするんですが・・・・


また、ユキアツの倫理的な責任、社会的な責任を追及するために、おしのさんというキャラクターを設定したはずなのに、そのおしのさんが、(ユキアツの雲七殺しについての追求は)「自分の今の日常」を生きる中での「気まぐれ」だったみたいな言い訳でその追求の手を引っ込めるのも納得がいかないところ。


◇結局、雲七殺しを意識化したといっても、雲七を殺したことに対する慙愧の念とか、後悔に悶え苦しむ様とか、そういう葛藤があんまり描かれていなくて、(そのため)結局は、ユキアツの自分自身のための自分勝手な理屈の構築、言い訳みたいに見えてしまっております・・・・・
言葉を換えると、39歳になっても社会的な責任を回避する、甘ったれた精神に見えてしまうといゆー・・・・



◆ところで、アトル、吉原行き・・・・というのが、結構考え無しの気がした。(・・・この後の展開を考えた上でのこの仕様だったらごめんなさい。)
江戸時代の吉原って、良くある話だと、(この回のBパートの最後みたいに)粋なおねえさまとかが描かれて、その華やかな面ばかりに気を取られることが多いと思うのだけど、この物語でも言われているように、この狭い街区から外に出ることは許されず、また、要は公的に認められた売春街でしょう!


人間としての自己決定を認められず、公権力と、売春宿の経営者、そして、自分の欲望を満たす男どもの手の上で転がされて、やがて若くして死んでいくのですよ。
いわば、籠の鳥であり、アトルが(前回描かれたように)追い求めていた自由とは対極にある場所。
逃亡を防ぐ為に塀で囲まれ、出口には見張りが立っている場所で、(場合によっては)一生をそこで過ごせというこの結末は、(そのヘンをテーマにした、この後の展開を考えているとすれば素晴らしいけど)華やかな出で立ちをさせられたアトルの笑顔と裏腹に、バッドエンドではないのかしら。


エクスキューズとして、こんな↓対話があるけれども。
「だが、禿は、やがて客をとるんだろう?」(ユキアツ)
「預かりモノですから、そんなことは致しません。」(遊女)


◆◆以下メモ◆◆
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・アトルの息の根を止めようとする鳥居甲斐の守の側近の女。それを止める、小笠原さん。
「いいんですか、あなたの・・お父上は」
「父のことは承知で養子に入った。あなた方には感謝している。しかし、彼等の邪魔はさせない。」
小笠原さんの父がらみで、何らかのドラマが予定されている様子。


・私、いままで「蛮社改所」の黒幕は、すっかり鳥居さんだとばかりおもってました・・・・
「いい覚悟だ。・・だが不首尾となれば。」(鳥居耀蔵
「蛮社改め所の取りつぶし・・覚悟しております。・・甲斐の守様のおかれましては、元々、蛮社改め所を設けるに反対で在られたとの由、それが適いますな。」(小笠原)


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・アステカの精霊「ケツァルコアトル」比定の妖夷を倒すユキアツの手段について、アビから、鋭いツッコミ。
「異国のモノに、漢神があるのか?」
「全てのモノに名前があります。それが示す力もね」などとゲンバツさんに説明させているけど、「この世の事象は漢字と、その起源である甲骨文字で表現されうる」とゆー世界観には無理があるような・・・
・中国の古代言語である甲骨文字が、全ての事象を表現し、かつ「異界」の論理そのものであるとゆー、メタ世界言語という立場になっております。


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・雲七殺害を思い出さなければ、アトルが生け贄にされるのを、日常に埋没して見過ごしたと、言っている脚本。このあたりは、まだユキアツは、日常に埋没することを潔しとしない精神的な態度を持っているのですが・・・
「ユキさん・・・無理だ・・・」
「そう・・かもな」
「余計なことを想いだしちまいましたね。・・私を殺めたことなんぞ、ずっと忘れていれば良かったんだ。」
「そしたら、あの娘を生け贄にしても平気でいられた・・・か。」
「・・違いますか?」


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・ここもそう。ユキアツは、妖夷を倒すという目的の前に、自分が作った幻影とはいえ、雲七を犠牲にするのを躊躇う・・・
「だめだ、(・・・)漢神を抜いた妖夷は消えていった・・・」
「ユキアツさん、カンチガイしちゃあ、いませんか。私は七次なんかじゃあありませんぜ。・・あんたは七次を殺した。それが耐えられなくて、異界の力を使った。・・今の私は、あんたが作った。・・あんたの中の雲七だ。」


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・しかし、アトルに説教しているうちに、段々覚悟が固まっていくユキアツさん。


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・まず、アトルにケツァルコアトルは、神ではなく、アトルの分身なのだと諭すユキアツ。
「あなた達にケツァルコアトルを倒させたりしない。・・・私はケツァルと一緒に、ケツァルの国に帰る!」
「そんな国どこにもない」
「伝説にあるケツァルコアトルは・・」
「どこかの国に追放され、また帰ってきた・・・か。・・・違う。ケツァルを連れてきたのはお前だ。作ったのは・・お前だ。」


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・そして、異界にかかわろうと、神に関わろうと、おまえは、平凡な人間にすぎないと説く。
「どこかに本物の神様もいるかもな。だけどアイツは、お前が異界の扉を開いて作ったモノだ。・・・オレの雲七と同じに・・・。」
「わかってた・・・わかってたの。あのとき、暴れ回るケツァルを見て。アレは・・・あたしだった。人の姿はしているけれども人ではない。・・私もそうだ。・・私は違う。どこの国でも私は。・・だから全部壊してしまいたかった。そして、どこか別のところへ」
「お前は異なるものか。」
「そうよ。・・あなたもそう言った。」
「違う。人はひとりひとりことなる。だけど、・・だから、平凡なただの人間なんだよ。・・オレも、・・お前も」
「・・・嫌だ。」
「オレが七次を殺めた時、俺はいった。死にたくねって。・・・その程度の人間だ。別の世界に行って帰ってきたからって、・・だからって格別違う訳じゃない。お前もそうだ。」


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・更に、罪の意識にさいなまれるアトルに、「オトナの処世術」≒「精神的鈍磨」を教授するのでした・・・・うう、なんてエッジに立っているアニメーションなんだ・・・
「私はケツァルコアトルを、神をもてあそんだ。・・・あんな化け物を作ってしまった。」
「誰でも罪を犯す。・・アイツも、どいつもこいつも。・・・だけど、それでも明日にはまた生きていかなきゃならない。・・罪の償いをして、はいそれで幕。・・そんな芝居みたいなことは、この世にはないんだ。・・お前はそれが嫌で、異界に逃げようとしているだけなんだよ。」
「そんなのずるいじゃないか。汚いマネをして、それで、また何も知らない振りをして、生きていくなんて。」
「それがオトナだ。もっと汚いマネもできる・・・」


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・事件が終わって、地下の前島聖天で、浮民の入れ墨を消すのを拒むユキアツ。これは、精神鈍磨の勧めをアトルに説いたユキアツへのフォローその①。言葉だけで、本当はその「オトナの処世術」に徹しきれないユキアツを表現。
「だが、リュウドウ、それはただの感傷だ。・・浮民であった証しを消さないということは、自分の昔を忘れたくないということだろう。」
「俺はただの浮民だ。・・それをわすれないだけだ。」



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・ユキアツへのフォローその②。ユキアツの雲七殺害の社会的な責任を曖昧にし、回避する為に、アトルに言わせているセリフ。。
「逃げてない・・にげてなんていないよ。この人は忘れなかった。自分のしたことをずっと。・・自分の罪を見つめていた。それって、つらいことじゃないのか。」


・ユキアツへのフォローその③。同じ目的で、自分の子供をかわいがりながら親分と会話するシノさんに言わせる。
「15年はながいね・・・親分、あたしはとっくに七次さんのことわすれてた。ユキアツさんのことを見かけて、七次さんのことわすれてた自分に腹がたったんだよ。」
「いや・・・だが罪は罪だ。」
「どんなきもちなんだろうね。・・・自分が殺めた人と、幽霊とずっと一緒にいるって。」