■天保異聞 妖奇士04生き人形s會川昇c&d宮尾佳和g管野宏紀亀井治

四谷の見せ物小屋界隈でヒトが拐かしにあう事件が相次ぎ、妖夷の可能性を疑った蛮社改所が調査に乗り出す。事件が起き始めた頃に小屋をかけた、見せ物一座にいる、異人の娘と馬に引っかかりを感じる一同だったが・・・・


プロットとしては、そんな話は、実はどうでもよくて、未だふらふらと己の立場を自分から決定できず、「39歳のいまも、他人と違う言動をしてしまう自分への違和感」を感じるユキアツが、「人種的に不可避に他人と違うことを意識せざるをえない」境遇の異人の女の子に、「他人と違う」という一点において、共感を感じるという、なんとも曰く言い難いふらふらした自己認識について語っている様な気がした。


結局、この回のラストでは、「お前とオレはちがう・・・・ヒトはみな最初から、ひとりひとり異なる。誰もがみな異人だ。」と腹をくくるのですが、そこに至る心理回路が分かり難かったかも。
こういう精神のジタバタした話は、個人的には大好きです。毎回毎回、非常に楽しませてくれて、貴重なシリーズですよう。


ただし、やっぱり物語的なカタルシスは分かり難くて、たとえば、この回の主題である、「拐かし事件」については、劇中セリフで語られるのみ。
シンプルな作劇だと、冒頭妖夷を出して暴れさせたり、拐かしの事件を描くのだけど、その部分をすっばり省略して、前半は、早朝に異人の女の子とユキアツを象徴的に邂逅させたり、浮民としてつけられた入れ墨などを軸にユキアツの地に足がつかないふらふらしたこころについて語り、後半は、異人の女の子との対話で、「ヒトはみな最初から、ひとりひとり異なる。誰もがみな異人だ。」と悟ると、その心理的な浄化を転化するように、妖夷との戦いが描かれるのです。


個人的には、「39歳ユキアツのジタバタ」を軸に、このセンでずーっと貫いて欲しいと、心底思いますが、毎回書いているけど世間受けが非常に心配。エッジをせめるのもほどほどにしたほうが・・・・と誠に余計な心配をしてみたり。


ところで、南町奉行鳥居耀蔵一派が、この異人の女の子を、妖士に先んじて押さえようとしたり、妖夷を使役していたりしています。耀蔵一派の妖しい側面が初めて具体的に描写された回でしょうか。


◆◆以下メモ◆◆
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・早朝に運河沿いで邂逅した、妖夷の可能性がある異人の女の子について、雲七が忠告する。
「私はただ、ユキアツさんはあまり関わらない方がいいと・・・(・・・・)いつかまた、向こうの世界に引き込まれたらどうするんですか。本当は、それを望んで、妖士とかいうお役目を受けた、・・そんな風に見えることがありますぜ。」
「四十といえば、隠居してもいい歳だ。・・なのに、居場所を探して、逃げ回るのも・・・情けないじゃないか。」


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・四谷の拐かし事件について、地下の前島聖天で妖士一同に語る小笠原さん。
・四谷の盛り場とゆーと、4宿とよばれた江戸の盛り場のひとつの内藤新宿あたりのことでしょうかねえ。
「四谷には、御改革に反して、見せ物小屋が、まだ出ている。ここ数日、その界隈で行方知れずになるものがある。(・・・)それに妖しい影をみたという話もある。」


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・腕に入れられた浮民の入れ墨を消すのを躊躇い、蛮社改所の小笠原さんの身分保障の書面も断るユキアツ。「身分など関係ない」と言ってはいるものの、彼は、「自分が決断して」「何者かになる」のが恐いのかなーっとおもったのだけど。
・25年間、回りに流されて自己存在の決定がなされてきた彼には、自分が選択することへのおそれがあるのじゃなかろうか。


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・四谷の見せ物小屋界隈で、屋台から賄賂を受領する同心の親分さん。
・彼に追いかけられてユキアツが逃げる姿を、店を構えていた、えらのはったおばさんが認めると「ユキ・・・」とつぶやく。親族関係かしら。



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・当時日本にはいなかった欧州風の馬と、日本の寸胴な農耕馬を描き分けてくれたらよかったんだけどな。
「異国の馬というふれこみだが・・・・妖夷かもしれん。」


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・見せ物小屋の馬小屋で、興行の準備をする異人の娘と再びであうユキアツ。
「おまえ異人だな・・・・どうゆう理由か知らないが、その素性のためこんなところに押し込められているのか。」


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鳥居耀蔵南町奉行に、四谷拐かし事件の主導権を渡すという小笠原さんとユキアツの対話。
「なあ、小笠原さん。あんたは未だ若いから、正しいことは一つだと思っているのかも知れないが・・・」
「正義はひとつではない・・・そんなことは年寄りに言われるまでもないっ・・」
おお、年寄り扱いされる主人公!


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・ユキアツ、雲七と、異人の娘について対話。
「お前も異人の娘などどうなってもいいと思うか?・・・なあ、雲七」
振り向くと雲七はおらず、宰蔵がいる。


「異人の娘、異人の娘というが、なぜそれにこだわる?」
「肌の色を隠して言葉を学び、この国に住もうとしているのだ。ほっといてやればいい。」
「そうやって庇いたてするのも、その娘を「我らと同等ではない何か」として見ているからだろう。自分が浮民としてさげすまれたからと言って、蔑まれているモノすべてが正しいとはかぎるまい」


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・ユキアツと異人の娘との対話
「あなたはユキワ(西洋馬)が化け物だといいたいのか」
「オレはお前を助けたい。きっと辛い目にたくさん遭ってきたんだろう。その憎しみが妖夷を・・・」
「あなたも、私達を異なるモノと見ている・・・」
「異なる?」
「この人形(生き人形)と同じだ。見た目は同じでも、中身は得体の知れない不気味な・・・そう見ている。」
「オレは、ただ・・・お前を可哀想だと・・・・・・・あ」
「可哀想だと・・・・どうして?わたしが異人だからだろ。わたしはこころのない人形でもないのに。」


・「可哀想だ」と娘を下に見る目線が無効であることに気がついたユキアツが、たどり着く心理回路。それは、自分自身の言動への違和感からの解放でもあった。
「お前とオレはちがう・・・・ヒトはみな最初から、ひとりひとり異なる。誰もが皆異人だ。だがらお前を助けたい。」