■天保異聞 妖奇士03華江戸暗流s會川昇c&d宮地昌幸g松田剛史谷口淳一郎

◇ユキアツが、後ろ髪引かれて引き裂かれる対象が、子供と、子供付き人妻だとゆーのが、主人公39歳なんだなー、という作劇のいい面と悪い面が出ているエピソード。
何はともあれ、家族も係累も捨ててふらふら生きてきた男が、魅惑される、係累と子孫がいる、ぼんやりとした「想像の安定」を演出しようとしていて、(微妙な成功度合いながら)非常に私好みで、こういうのは好き。
反面、この番組のメイン視聴者である少年少女たちには、魅力と切実感に欠けるエピソードでは・・・・・と思ってしまった。
この回登場の、存在しない戦場を駆けめぐる妄念に耽溺している耄碌したジジイとともに、私的には、非常にツボをヒットしているのだけど・・・・まあ、余計なお世話か。


◇ところで、ユキアツは、25年間前に見た異界に魅惑され、それと引き比べた時の現実の味気なさに幻滅し、いつかは異界に・・・・・と思ってきたのだと思うのだけど、いざ異界に関われるという妖士への誘いを受けると、即座に断るとゆー心理的な揺れがちょっと理解しづらいかも。


散々、適わぬ「異界」という夢だけをぼんやり追い続けてきて、現実の自分は「本当の自分」ではないと思い、素晴らしいバラ色の世界で生きる自分を夢想し、しかし、25年間たつうちに、段々と、それはマズイと思い始め、漸く「それでもヒトは、この世で生きていくんだ。つまらなくて。辛くても。」という境地になったユキアツ。
その世俗的な諦念の境地に至るまでの、希望と断念の葛藤の積み重ねは、年月が長いだけに、幾重にも複雑怪奇に堆積し、だから、そのつぶやきは、実感のこもった重い断章なんんじゃないだろーか。


だから、その永年かけてたどり着いた重みのある実感を大切にしたいと思う。
そして、その実感を脅かす可能性のある異界には関わりたくないと思い、関わったがために、少しでも前のふわふわした心境に引き戻されることをひどく恐れている。


◇ユキアツは、その「それでもヒトは、この世で生きていくんだ。つまらなくて。辛くても。」という地点をオウタ親子の生活を想像することで再確認し自分に言い聞かせ、その上で、初めて「異界」を正面から、自分自身に及ぼした影響を含めて再検討する。
その結果「異界はヒトを惑わす。そして、全てを奪う。」と思い、そして漸く「・・・なら、オレは。・・・戦う。」という結論に達する。
非常に手続きを踏んだ脚本で、回りくどいけど、主人公39歳の心の動きとしては悪くない気はする。・・・だけど、演出的にはあんまり成功していないと思ってしまった・・・・・


◆◆以下メモ◆◆
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・妖夷を倒すと、その肉を取り出して喰らうとゆー・・・・卒倒するような意味不明な設定が登場。異界が魅惑の世界であることを味覚に訴えて表現しようとゆー、試みなのかな・・・?
・しかし、前回の妖夷は、オウタくんの父親を喰らったか、取り込んだかで、なんというか、それ食べちゃ倫理的にマズイのでは・・・・とおもったのだけど。
「これも妖士のお手当のうちだ。・・妖夷の肉は旨い。・・・一度食したら、他のものなど砂と同じ。」
・ユキアツは25年前に、妖夷を口にしていた。


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・江戸の地下に、巨大水路を通って到達する高床式の巨大神殿が・・・・・
・前島聖天といって、蛮社改所の本拠地らしい。
「私は前島聖天の神主で・・・呪者といわれるものの末裔でね・・・古来より、女のなりでまじないを請け負ってきた。」



「ヒトは贅沢なものだ。旨いモノを知れば・・もう舌は直らない。・・楽な暮らしをすれば、二度と不幸には戻れない。」
「オレは異界に関わる気はない。ヘンなモノでオレを誘うな。」


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南町奉行所で、鳥居耀蔵が、側近と会話。八百万の神々と戦う展開になるのだろーか。
「竜導ユキアツが妖夷と出会い、・・己に目覚める・・・まずは成功だな。」
「しかし、妖士にあまり跳梁されますと、この国の神々がお怒りになりましょう。」
「所詮きゃつらが鎮める妖夷など・・数が知れておる。八百万の神々は・・・すわべ(?)におわす。・・・そこに触れえるのは竜導のみだ・・・」


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・妖夷による火事の報を聞き、恍惚の妄念のヒトになってしまったご隠居さんが、名調子で声を張り上げる。
「・・・あの鎧を取り戻さなければ、せがれが売り払ってしまったご拝領の黄金作りの・・・」


・このジイさんが戦場の妄念を抱いて夜、床についているところと、朝、ユキアツが目覚めるところが画面構図的に重ねる形で演出されているので、ジイさんにとっての妄想の世界での戦場を駆けめぐる達成感に満ちた世界への執着が、ユキアツの異界への執着と対比されているのかなーっと思ってみた。
・両方とも「あるはずがないもの」への固着と、それによって人生がふわふわと危うい事になっている・・・・
・朝ユキアツが目覚めて、最初に目にするのが、オウタの母の妙さんだとゆーのが、現実の重しなのかな。


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・朝、ユキアツが長屋で、カオを洗いながら、ひょっこり現れた雲八との対話。
「あんたは、どんな身分でもない、ただのユキさんだ。・・そう、あり続けたいんでしょ?」
「あの女の亭主に収まれば・・それでホントのオレになれる・・ということか・・・」
茫然とぼんやり呟くユキアツがいいカンジ。


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・物語に全然絡まない古道具屋の女主人が、黒船来訪とゆー、未来のことをしゃべり出すのでびっくりした。一話二話の視聴者目線での物語の説明の延長のような気もするけど、その割に背景音楽に重みがあって、うーん何かの布石なのかも。
「なんせ、金銀を使った贅沢な鎧兜は売ってはならないってんで、水野様のおふれが出ていますからね。・・天下太平だから最近手放すかたばっかりで、ちーっとも売れやしません。・・ですからどうにもならないもんは、そのとおり、捨ててますよ。・・・あと十年もすりゃ、黒船ってのが来て、あわてて鎧刀を買い集める時代が来るんだけどね。ふっ、は、はははは・・・・」


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・山鯨屋。江戸時代までは、四つ足禁忌ということで、イノシシを山鯨と言っていたとは聞いたことがあるけど、馬や牛もたべていたとゆー、劇中エピソードはどうなのかしら。オウタくんは抵抗を示してはいるけども。
「馬や牛は大切だ・・・死んだら決まった場所に出す決まりで、勝手にくうもんでねえ・・・」


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・妄念の騎士とユキアツの対話。
「戦だ・・・うおお、おもいだす。・・駿馬をかって戦場駆けた若き日・・・・うぉおお・・・」
「天草の掃討から200年。天下は太平。・・・如何に殿様のお歳でも、戦場はお知りになりますまい。」
「わしは若い頃、あの鎧に身を固め、あの戦場で。」
「お読みになった軍記が頭の中で、本当の話にすり替わっておられるのでは・・ありませんか。(・・・・)金で作った鎧など、重くて脆いだけのもの。戦場では、役に立たない飾りにすぎない。」
「ううううう・・・」
「それを求めるのは、武士の本懐ではあるますまい。・・・殿様、あなたの魂は異界に犯されておられる。あなたの妄想を、妖夷が繰っておる」


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・漢字講座。妖士の筆頭格のお侍さんが解説。
「列・・・首を切る刀と、切られる首を示す文字。・・・敵兵の首を切り並べる・・・すなわち列。鎧を並べ、力をなした妖夷か。」


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・ジジイの妄想を解き放ち、妖夷が消滅した後のユキアツとオウタの会話。
「異界はヒトを惑わす。そして、全てを奪う。・・・それが妖夷の力。・・・なら、オレは。・・・戦う。」
「でもさ、あのおじいさん、夢見られて楽しそうだったよ。」
「くすっ・・・・」
・ユキアツは、自分の地点を見定めて足下を固めたうえで、進む道を選択したってことなのかしら。他の妖士とともに妖夷の肉を食べるユキアツ。


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・雲八との対話。
「とうとう、逃げられなくなっちまった・・・てことですか。」
「異界が気に入らない。・・すくなくとも、自分がラクをする・・・よりはマシな理由だ・・・・」