■蟲師17虚繭取りs山田由香c&d&g今泉賢一

ワタクシの知識なんて限られているけど、元々異常に独創性の高いこのシリーズの話の中でも、さらに突出してオリジナリティのある話ではないでしょうか。漆原友紀さん、すごいです。


養蚕という産業をモチーフにするというのもめずらしいが、たまに蚕がいない繭があり、そういった繭には「なにか良くないモノ」がいるという産業の現場での言い伝えは、実にリアリティがある。(劇中では、虚(うろ)繭と言ってます。)
この言い伝えに玉繭という、希にあるという、二匹の蚕が一個の繭を作る現象を放り込み、この玉繭に蚕がいなかったらどうなるだろうと考える。「何か良くないモノ」は、なんらかの特性を帯びるのではないだろうか。


繭は、元々、一匹の蚕が一本の糸だけで構成するものであるので、玉繭は、二本の糸が取り出せることになる。
そこで、蚕がいない玉繭から二本の糸を丁寧に巻き取り、二個の繭玉を作る。すると、「何か良くないモノ」は、その二本の繭玉の間を行き来するようになる・・・・・・


そして、漆原さんは、これを通信に使うと発想するのです。代々、虚繭による通信を司る「虚守(うろもり)」の一族を仮定。一方の繭を虚守の家に置き、一方を蟲師が持つ。蟲師が他の蟲師と連絡を取ろうとするときに、ちょうど、虚守の家が電話交換機に相当するように、仲介を取り持つ。
この、繭があまた、天井からぶら下がっている様は圧巻です。こんなビジュアルはあんまり見たことがないはずだ。首をくくっているような、不気味で、まがまがしい印象。
(10話の「硯に棲む白」で、化野センセイがギンコと連絡とったのも、これによるに違いない。)


また、この話に、さらに深みと凄みを与えているのが、「虚(うろ)さん」の行き来する日常のあちこちに潜在するという「虚穴」の設定と、そこに迷い込んだ双子の片割れを探す、双子の守人のエピソード。
「現世には、あまたのほらが空いている。煙の如く消えし者らは、洞を彷徨い続けるのだという。記憶をなくし、心をなくし・・・・・」


◇以下メモ。
・トザワ家に代々素質のある者が誕生。滅多に現れないが、何十年かぶりに双子の素質者が現れる。アヤとイトは、10歳の誕生日とともに、虚守の家にもらわれていく。


・先代の虚守のじいさんの虚さんについての話。
虚さんは蟲師の通信に使われているが、「それも数年で取り替えなければならない。虚さんってのは巣からどんどん虚穴を広げていくものだ。いずれはどこかの密室だか、ほかの虚穴だかに貫通してしまう。すると、文がまともに届かなくなるんでな・・・」


・先代の虚守の10歳のアヤとイトへの言い聞かせ
「虚さんをかるくみてはいかんぞ。虚さんってのは、現世に風穴明けて回る、恐ろしい蟲なんだ。」
「この辺りは虚さんのわきやすい土地でな。密室を見つけてはわいて出る。だから部屋の戸は・・・閉じちゃあならん。あやまって戸をしめちまったらあけてはならん。」
「明けてもし虚さんが中にいたら、逃げ出す虚さんとともに虚穴にとりこまれちまう。虚さんは密室の外にながくいられんものだからな・・・・」


・「とりこまれたらどうなるの」
「ずぅっと虚穴を彷徨うほかないと聞く。」「閉じてはならん。明けてはならん。」


・10歳のイトは、うっかり縁側で眠ったときに、虚さんにさらわれてしまうのでした。偶然風に吹かれて落ちてきた布がすっぽり身体にかぶさると、目の前に虚さんがいて、様子を見に来たアヤが布をひょいとめくって。


・彼女が、失踪した時の姿形で、心をなくし、ある養蚕農家の家に再びあらわれるのは、さらに何年もなってからだった・・・・。繭のなかから、指から現れてくる彼女の描写は非常に印象に残ります。


・そんな虚穴を、秘密の抜け穴として利用している蟲師。虚穴の中にはしっかりとした鉄の鎖でみちがつけられているのでした。この、大変な葛藤と意志とドラマがあったと忍ばれる、虚穴開拓のエピソードが是非みてみたいな。