■フルメタルジャケットsスタンリー・キューブリック/マイケル・ハーdスタンリー・キューブリック

おとつい見た奴の感想。
非常に面白かった。テーマの切り取り方、画面設計、ゆったりとした重みのあるカメラワーク、音楽をあまり当てにしていない演出、とてもキューブリックらしい。


ベトナム戦争映画である。であるが、これは・・・・英雄物語とか、悲劇とか、心に住まう良心だとかが原動力の倫理の物語などとは遠いところにある。
なんというか、住人を豚とかねずみとか日常的に呼び、殺すのに何の情動もなく日常のさりげない挨拶とか手を洗うとか、と一緒のレベルと感じてしまう世界の話。
そして、そう感じさせるための、ある特別な、イデオロギーが支配している世界。


この映画は、そう感じる人間を養成する世界から入っていく。・・・冒頭40分の海兵隊の養成風景。これは絶対、洗脳だよね。豚とか、ファックとか、こう、ここに書くのもはばかられるスラングの、いや下品な言葉そのままが交錯する世界が延々と続く・・・・。徹底的に侮辱し、服従させ自我を打ち砕き、人殺しが地続きな人間をつくっていく。海兵隊って、ほんとに、こんなイデオロギーともいえない、イデオロギーをおのおのの人間に刷り込むようにやっているの??
いままで見てきた戦争映画だって、スラングがいっぱい飛んでいた。でも、ここまで下品、ここまで非人間的な教育風景ってみたことないんだけど・・・・創作じゃないよねぇ?
映画では、善良でとろい男が、この狂気のイデオロギーに染まり、養成期間の最後に教官をぶちころす。シャイニングのジャック・ニコルソンばりの、狂気の表情。
これは、養成受けた全員が、違う世界、このトロイおとこと同じ地点にたってしまったということなんだろうね。


さて、主人公はジョーカーと呼ばれる。かれは、訓練兵としてトロイ男の面倒をみていた。冒頭、物静かで、聡明で教官に逆らう気概をもった男として描写されている。とろい男の世話もかいがいしく焼いている。でも、あるときから彼はとろい男を邪魔に思い、仲間に混じって闇討ちしたりするようになる。それも執拗に2度も三度もするのです。


場面が変わって、ベトナム。彼は、戦場報道兵。なんというか、ものすごく戦場になじんでいる。
かれは、帽子に、やつらを殺すという、縫い取りがあり、しかし、左胸には平和の象徴のマークがある。(余談だが、これピースマークと字幕では説明されているけれども、マクロスの統合軍のマークにみえてしまうんだけど。このピースマークとされるものがネタだったんですかね)これを戦場の大佐にとわれて、二重人格なんですと説明しているけれども、冗談でもなんでもなく、殺すことが平気な自分がいて、しかし、それを拒否する自分が平然と並び立っているってことだよね。


野戦のシーンはセットもすばらしいし、キューブリックの面目躍如。音楽つかっていないのに画面に緊張感があるし、しかもあきが来ない。どのシーンもそうだが、見るものにからみつく何かがある。
普通の戦争映画だったら、ほらここではらはらしろ、ここでなけ、ここであつくなれと音楽をかけるけど、キューブリックはそんな並みの演出はしない。画面だって細かく動かしたり、極度の被写体に接近して臨場感を出すけど、キューブリックは対象と一定の距離を保つ。たとえば、プライベートライアンの戦場当事者の混乱に満ちた戦闘演出は否定はしないけれども、なにがなんだかわからないもんな。


そして、戦闘そのものもかっこいいものではない。指揮官は簡単に流れ弾に当たって死に、簡単に道に迷う。ほんのわずかのスナイパーにやられて一人が孤立すると、敵からいかに助け出すか理知的に考えるのではなく、無線で大部隊に包囲されました、どうしようもありません。戦車をよこしてくださいよと情けないことをいう。
人間の暮らす世界は、整然としたものではなく、偶然に差配される、なんともしまらないだらしのないものなんだよと。その日常の延長にある戦場。それが戦争なのだと。


最後、仲間の4人の命を一人のスナイパーに奪われて、ジョーカーたちは、そのスナイパーを追い詰める。追いつめてみると、ベトナム人の女が一人。ジョーカーは弾切れ、あわててしまい醜態をさらしているところを助けられる。若い女だ、虫の息だ。ほかのみんなはほっといていこうという。しかし、ジョーカーは、ほっておけない。ではどうする?
銃で殺すのだ。その動機が、仲間を殺されたからなのか、苦しんでいる女を楽にしてやるためなのかは説明されない。たぶん、多くの人が抱くヒューマニズムを採るんじゃなく、きっと前者なんだとおもうよ。


ラストシークエンス。
夜、炎上する廃墟の町を兵隊たちが、徒然歩く。
ミッキーマウスの歌を歌いながら・・・・・・・・・・すごい。とても象徴的なラストシーン。
これがこの作品のテーマを端的に表現していると思います。こうくるか、さすがキューブリック
・・・でもディズニーが許してくれたのか?やはり巨匠だからなんですかね。