■ミチコとハッチン22ありのままで走れs宇治田隆史c山本沙代d岡佳宏山本沙代g清水洋久保川絵梨子

ミチコとハッチン
◇最終回。
◆恋いこがれたヒロシに出会ってみれば、(自分の中も外も)何かが違う。刑務所の脱獄から始まる、ミチコの激烈な行動の原点であったはずなのに、出会ってみれば、もう、かっての熱烈な感情が湧かない。
ああ、こんなものだったんだ。私は虚像を見ていた。見ていたのは自分自身の幼さの反映された閉じた世界の自分のための物語。そこには他者はおらず、強烈な自己愛の反映であるという以上の意味はなかった。


◇しかし、今は、新たな関係性の中にいる。この絆は現実であり、他者が存在し、自己愛は抑え目だ。わたしは彼女のために生きる。・・・・・かくて、真性のバカ女は成長し、一方、大人びた子供は本当の大人になって、しかしミチコとの日々が育んだふたりの絆は永遠なんだと痛切に思う・・・・・・みたいな結末。


◆女達は成長してささやかで確かな絆の中で日常を地に足をつけて生きていく。
非日常の夢(ミチコとの逃避行)から覚めて、単調な日常(成長したハッチンは、その前向きなモノローグと裏腹に、日々仕事に追われ子供の顔を見て癒されるのみだ。それに、子供をもうけた男に逃げられた(?)というエピソードは、語られていないが洒落にならないよね。)に埋没しても、その単調な日常をさえいとおしいと思い、前向きに生きていく余裕がある。だけど、男(ここではヒロシが総代表)は、いつまでもふわふわして・・・・と吐き捨てるみたいな視線が確実にあって、監督が女性だからってこともあるのでしょーか。(脚本は男性だけれど)


◆単調な日常を前向きにそれなりに満足して生きているけど、だけど、ハッチンはモノクロの日常に飽き飽きしている。
謎の届きものから始まって、それが遠い刑務所から自分の家へと続くミチコの歩みだと気がつく時、ハッチンの世界に色彩が加わる。ミチコとの再会、日常からの逸脱、奔放で常識のない日々。ハッチンは、「何かが来る」と思い、興奮し鼻血を垂らす。
「間違いない。私の家に続く道だ。・・・今、電気が走った。」(ハッチン)


「この道の向こうから、アイツが帰ってくる。今度はどこまでいこうか。・・・ミチコ」(ハッチン)


◆人死の多発する物騒なチンピラの抗争をちらりちらりと表面に出してきて、暴力的なエピソードもかなり多かっただけに、この幸せでほんわかした上で、無私の絆について語る結末はかなり意外。そして、非日常が再び始まるワクワク感かな。物語は終わらない。
こういう前向きで希望に満ちたのも私は大好きなんだと気がついた。(私の本領は陰々滅々系なのだけど。)


◆さて、このシリーズ、毎回読み切りに近い形で「存在感のあるキャラクター」を短い状況と対話の積み重ねと大量の小道具と音楽で創造するシナリオと演出が素晴らしかった。また、各回、演出の手管や展開がバラエティに富んでいて、しかも全くはずれが無い!画面の吸引力の強さはすごかった。


◇シナリオの宇治田隆史さん、監督の山本沙代さんともに初めて存じ上げたので、今後がすごく楽しみです。


◆一方で、物語の縦軸であったはずの「ヒロシ」や「モンストロの人々」「アツコ」などの物語としての決着の付け方が(主軸物語(ミチコの物語)との関係という意味で)すごくあっさりしていて、ここが物足りないといえば足りない気がしてしまった。


◇だけど、これはきっとこのシリーズ全体のコンセプトの問題で、「今現在ここにいて生きている!」という読み切り短編にこそ、このシリーズの本質があるんじゃないかしら。とにもかくにも、見応えのあるシリーズでした。超良作シリーズ。