■スカーフェイスsオリバー・ストーンdブライアン・デ・パルマ撮影ジョン・A・アロンゾ

製作:1783年
原題:SCARFACE
アル・パチーノミシェル・ファイファー


◇SCARは、傷痕、又は、心の傷って意味だって。
1980年のキューバからの12万人という大量の亡命者に紛れ込まされたという、2万の犯罪者の中のひとりが、フロリダで、麻薬を生業とする暗黒街の顔にのし上がっていき、やがて破滅する様を描いた話。


◇何はともあれ、アル・パチーノの若さにびっくり。そして、(もちろん演技の事をいっているのだけど)そのギラギラとしたチンピラぶり、コンプレックス丸出しの威厳のなさ、それとは正反対の捨て身すれすれの決断力と行動力、爆発的な暴力に結実するこらえ性の無さ、田舎モノ丸出しの成金趣味の描写に感動します。
やはり、ダメ男は愛おしい。(現実には、こんな粗雑で暴力的なヒトとの付き合いはお断りしますが・・・。)


◇印象で言えば、特に、主人公トニー・モンタナ(アル・パチーノ)が、成り上がる前半がいい。全てが上手く行き、博打に近い賭けが当たり、「俺が欲しいモノは俺のものだ」という強引なノリで次々に、金と地位を手に入れ、ついには、ボスを殺し、念願のボスの女を手に入れる。


◇ところで、作中のキーワードとして、<The World is Yours>というのがある。劇中ボスを殺して、トニーの成り上がりの最初に見初めたボスの女エルビラ(ミシェル・ファイファー)に、飛行船の電飾として見せつける言葉であり、エルビラと結婚して構えた屋敷の玄関エントランスの噴水に、地球を模して設けた球体の表面に書いた言葉である。


この言葉は、エルビラに捧げると同時に、彼の心理的な終末を決定づけた実の妹に対する言葉でもあるのだけれども、実は、この言葉は心理的に裏返っていて、<The World is Mine>という自分中心の未成熟な自我が、自分の成り立ちを抑圧して覆い隠す為の、過剰な世間への主張なんじゃないかなーと思ってみました。


◇さて、後半のアル・パチーノの人間的な無惨さも見事です。
まず、絶頂期の成金ぶりに、何を於いても脚本の意地悪さが際だちます。生きているトラ、巨大な肖像画、キンキラキンに過剰に豪華に飾り付けられた執務室、TM(トニー・モンタナの頭文字)の家紋、広い大理石の泡風呂に浸かりながらテレビを見る様子。


やがて、脱税で司直の手に落ち、懲役必至の状況を嘆き、麻薬に走り、妻をののしる。次第に言動がおかしくなっていく。
白眉は高級レストランでラリって妻をなじり、レストランの客を相手に大声でクダを巻き始めるところ。ここは、ゆったりした画面共々、痛いカンジが素晴らしかった。


事態を打開しようと、ボリビアの麻薬組織に操られるまま政府高官の車を爆発し暗殺しようとして、だけど同乗する彼の家族に仏心が起きて、急にボリビアからの殺し屋を殺しちゃうなど、やることは無茶苦茶。


◇この没落の精神的な荒廃は、(まこと、月並みな解釈で恐縮ですが)地位と金と女を獲得することだけを考えてきた男が、頂点に立ってみたら、そこには望んでいたものがないことに気がついた。だけど何をどうやって求めたら満たされるのかがわからず、虚無に落ち込んで自暴自棄になるという、心理的な空漠を上手く演出しているのではないかしら。


こうしてみると、<The World is Yours>という言葉は、彼の自分中心の心理が裏返った言葉であると同時に、彼が縋り付きたかった言葉じゃないかなという気もしてきます。
<世界は君のもの>。だから、俺に愛情を与えてくれ・・・・・・そんなカンジ。


◆◆以下メモ◆◆
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・冒頭の物語の背景の説明
「1980年5月、キューバカストロ首相は、マリエル港の封鎖を解き、米国に家族のいるキューバ人の出国を許可した。」
「米国から迎えに駆けつけた船は3000隻。・・・だが、船には目当ての出国者の他に、刑務所をさらったゴミが詰め込まれた。」
「フロリダについた避難民は、12万5000人。2万5000人に犯罪歴があった。」
「<彼等は革命を理解しない。この国には無用だ>」


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・まず印象に残るのは、物語開幕早々に、フロリダに着いた難民に混じった主人公トニー・モンタナ(アル・パチーノ)が、尋問室で入国審査官に尋問を受けるところ。彼の顔と取り巻く審査官の腰を画面に映しつつ、ぐるりとカメラはゆったり回り、尋問される閉塞感を出した後、ぱっと立ち上がって「政治的な主張」をまくし立てるあたりとか。


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・初めて大きな麻薬取引を任され、取引相手の罠を九死に一生を得てボスのフランク・ロベスに面会するシークエンスとその後繰り出した「バビロン・クラブ」。
・精一杯背伸びして、必死に大物ぶりをアピールしようとする田舎モノの努力が仄見えるトニーが健気でいい。


・その後、ボスの妻エルビラ(ミシェルファイファー)と踊ろうとして相手にされないところとかもいいです。トニーが、ぴょこぴょこ跳ねて、踊りが板についていなくて爆笑。アル・パチーノ、素晴らしすぎる。


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・フロリダの真っ白な海岸で、弟分のマニーと共にナンパするあたりの、田舎モノ丸出しぶりもポイント高いです。アイスクリームでナンパしようとしたり、如何に持てようかと腐心する様は、兄弟分ともども、中学生並でとても微笑ましい。
「わかったか・・・この国は全て金だよ。金が力を作る。力があれば、女を抱ける。・・・俺はやるぞ」


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・中盤、「バビロンクラブ」にて、エルビラを口説き、ボスのフランクに見つかり衝突し、また、妹をトイレに連れ込んだ男を痛めつけた後、脱力して茫然とショーを見ているトニーを狙う二人の殺し屋のシークエンスもヨカッタ。
・トニーがもたれ掛かってだらしなく座るボックスシートの背面にある多面体の鏡が、華やかなショーを映し、徘徊するショーの着ぐるみともども、トニーが対象を喪失して迷い込んだ異界を演出しているようで、この映画で一番のツボでした。


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・ボス、対話中の電話という仕掛けで、フランクの差し金と確信したトニーは、ボスを殺害。念願のエルビラを手に入れるのだが・・・


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・フランクの屋敷で、暗くなりつつある屋外の入江上空に<The World is Yours>と電飾を流した飛行船を飛ばし、それを脂汗を流しながらぎらぎらとした目で落ち着き無く、タバコを吸いながら眺めるトニーは、地位も金も女も手に入れたぞ!というのを田舎モノ丸出しで表現し、しかし居心地が悪くて、これで良かったのかと自問自答するように思えました。


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・ラストの、ボリビアの麻薬組織の報復による襲撃は、いまひとつ盛り上がらなかったかしら。トニーの死にざまも、何だか不完全燃焼。